シンガポールで支持者に手を振る、在りし日のリー・クアンユー氏=2011年4月27日(AP)【拡大】
開発独裁をめぐる批判が欧米で高まるなか、リー氏が傾倒した「アジア的価値観」は、家父長的な指導者に強権を認めるものとして、人民行動党の長期政権や、エリート支配を正当化する言い訳となった。
こうした晩年のリー氏は、同年配である台湾の李登輝元総統(92)と比較された。「文明の衝突」で知られ、ハーバード大学教授を務めたサミュエル・ハンティントン氏は、自由、民主など「世界的価値観」を重視した李氏を引き合いにリー氏を論じ、「李氏が取り入れた自由と創造性は李氏の後も続く。リー氏のもたらした正直さと効率はリー氏とともに墓場へ行きそうだ」と批評した。
一代でシンガポールの繁栄を築いた東南アジアの巨星は去った。リー氏なきシンガポールが、経済繁栄と政治改革の岐路に立つことは、避けようのない現実である。(山本秀也/SANKEI EXPRESS)