ピアノは不思議な楽器だ。他のあらゆる楽器のなかでもっとも音域が広く、一人でオーケストラ並みの音階を生み出せる。ダイナミックに弾けば迫力ある演奏になるし、静けさを追求することもできる。だからさまざまなスタイルのピアニストがいるのもうなずける。そんな多様な世界で、今回はどこかノスタルジックなプレーをする2人のピアニストを紹介しよう。
弦楽四重奏取り入れ
まずは、カナダ出身で現在はフランスを拠点に活動するチリー・ゴンザレス。もしかしたらファイストのプロデューサーとして認識している人も多いかもしれない。とにかく才能あふれるマルチな人物で、シンガー・ソングライターとしてポップな曲を歌ったかと思えば、ヒップホップのビートに乗せてラップを披露し、テクノのサウンドに挑戦したりもする。しかし、彼の評価を一段と高めたのは、2004年に発表したピアノだけのアルバム「ソロ・ピアノ」ではないだろうか。親しみやすい練習曲のようなメロディーでありながら、ジャズやクラブミュージックの要素がさりげなく取り入れられた作品集は、12年に続編も作られた。最新作「チェンバーズ」はその延長線に位置する意欲作。ピアノに弦楽四重奏を取り入れた室内楽的サウンドはどこか懐かしく、クラシックともジャズともいえない魅力的な音空間を演出してくれる。