さて、先の「夫婦善哉」。難波の西洋料理店「自由軒」で卵入りのカレーを食べる情景が描かれている。
わたしが産経新聞社大阪社会部で仕事をしていたころ、「自由軒」という名にひかれて店に入った。自由民権運動が盛んだった明治時代の創業という。名物カレーを注文した。カレーとご飯を混ぜ合わせ、生卵を落としている。辛口だが、まろやかな食感。うまい。店内を見渡す。織田作之助の写真。額縁に入れて飾っている。左手を頭に添え、右手に万年筆。常連客だった。決まって名物カレーを食べたと伝えられる。額縁にはこう記されていた。
――トラは死んで皮をのこす。織田作死んでカレーライスをのこす。
短編集を読み終えた。なにげなくページをめくった。発行年月日が印刷されている。驚いた。2013年7月17日 第1刷。9月5日には第3刷。最近のことではないか。名作は時代を超えて読み継がれていくのか。もう1度、表題作を読み直した。(塩塚保/SANKEI E XPRESS)
■逍遥 気ままにあちこち歩き回ること。