揺るがない空気感
イスラエルは今やジャズ先進国となったが、その代表的な人物であるベース奏者、アヴィシャイ・コーエンのグループで腕を上げたのがシャイ・マエストロだ。ティグランに比べると、彼の場合はかなりオーソドックスといえるかもしれない。同郷のドラマーであるジヴ・ラヴィッツと、ペルー人ベーシストのホルヘ・ローダーによるピアノトリオで奏でるのは、ほのかに中東の雰囲気をたたえた美しい調べ。キース・ジャレットのようにリリカルなプレーが全体を貫き、エモーショナルな瞬間はあれど静けさを重視したアンサンブルで聴き手を魅了する。最新作「アントールド・ストーリーズ」ではスタジオ録音とライヴ音源が混じっているが、一貫した空気感は一切の揺るぎがない。まさに職人技といってもいい作品に仕上がっている。(音楽&旅ライター 栗本斉(ひとし)/SANKEI EXPRESS)