自分にとってかけがえのない人物が余命を宣告されたとしたら-。慎重に言葉を選びながら、自分に言い聞かせるかのように、佐藤は心構えを語った。「受け止め方は、30代、40代、50代…とそのときの自分の年代によって随分と違うでしょう。自分自身が人生全般で積み重ねてきた経験値がそれぞれの世代で違うからです。僕はまだ壮年だけれど、これからの人生を考えたとき、一番大切な人を失ったときの喪失感というのは、若いときに越えていくものとは全然違うくらい大きなものになっていくのだろうと思う。今後、そういった問題により一層多く出くわすことになるでしょう。この映画を通して、そういう意味でも自分と向き合っていくことができました」
樋口の場合はどうか? 「もし私が良子だったら、すぐに夫に『私が死んじゃったらどうする? ねえ、どうする?』という感じで、聞いちゃいますよね。良子にはすごみを感じますよ。一見、何もかも完璧にこなす、よくできた奥さんにしか見えないのですが、実はまるで違う。庭仕事をする篤史を窓越しに見ながら、キッチンで平然と“遺書”を書きあげてしまう良子の姿を思うと、私はゾッとします。私はこの良子のすごみに魅力を感じて、何としてもこの役を演じてみたいと思ったんですよ」。いつも撮影現場で周囲を和ませてくれる陽気な樋口らしい返事が返ってきた。