底流に悲しみや抑圧
ただ、本作の底流にあるのは、ゴバディ監督の個人的な感情だけではない。「イランの国民的スターで主演を務めたヴォスギーは、イラン革命後に米国へ移り住み、35年間もの間、実質的に引退に追い込まれていた人物です。本作で久しぶりに俳優へ復帰した彼の気持ちも、また私と同じで、悲しみに満ちたものでした。モデルとなったキャマンガールにいたっては25年間の獄中生活を余儀なくされた。そんな過酷な環境で沈黙を強いられた彼の詩もまた静かなものだったんです」
「イタリアの宝石」と称され、グラマラスな美貌で世界中の男性の視線をくぎ付けにしてきたベルッチが、本作では初めて老年に差し掛かった女性を演じたこともファンを驚かせた。「ベルッチとは知人でした。何度か映画祭で話した程度です。私は大勢の女優たちにヒロインのオファーを出しましたが、すべて断られていました。いよいよ撮影が1週間後に迫り、駄目でもともとと思い、ベルッチに連絡をとったところ、彼女は『パリで話しましょう』と返事をくれました。3時間ほど彼女に作品や映画化の意図について説明しました。すると『いいですよ』と出演を承諾してくれたのです。なんと彼女はギリシャ映画の出演をキャンセルしてくれました」