「思い立ったが吉日」が仕事をする上でのこの人の信条なのだろう。カメラに収めるべきものがあると察知すれば、たとえ戦乱の巷(ちまた)と化した見知らぬ外国の街であろうと積極果敢に足を踏み入れ、何もかも奪われ“丸裸”にされてしまった人間たちが、それでも瞳の奥にわずかに宿し続ける光を記録に残してきた。
主にドキュメンタリー製作をライフワークとしてきたドイツの映画監督、ペペ・ダンカート(60)。SANKEI EXPRESSのメールインタビューに寄せた彼の返事の一節もまた印象的なものだった。「かの有名な画家、ポール・セザンヌ(1839~1906年)は『一筆振るたびに命がけ』と語ったそうです。私ならばこう言います。『撮影のたびに、強い麻酔にかかったように心の中でずっと眠り続けてきた固定観念を、私は命がけで奪い去る』とね」
「過去」背負うべきではない
そんなダンカート監督の新作「ふたつの名前を持つ少年」(独仏合作)は、ポーランドにあるユダヤ人強制居住区(ゲットー)を脱走した少年がたどる過酷な人生の軌跡が実話をベースに描かれている。原作はポーランド系イスラエル人の作家、ウーリー・オルレブ(84)の小説「走れ、走って逃げろ」。ポーランド系イスラエル人である数学教師、ヨラム・フリードマンが原作のモデルとなった人物だ。