作ってはみたものの…
本作には、急激な工業化が引き起こした草原の深刻な環境破壊の描写が織り込まれてはいたが、幸いにも当局は検閲で待ったをかけなかった。喜んだのもつかの間、プロモーション活動の最中、ユグル族のネットユーザーが李監督に対して、映画に対する不満を“漢字”を使って書き込んだ。「要するに余計なことをしてくれるなというのでしょう。漢民族である私がユグル族の子供たちにラクダや馬の乗り方やユグル語会話を教えたことが気にくわないというのです」
それ以上に暗澹(あんたん)たる思いになったことがある。昨年、東京国際映画祭へ本作を出品する際、当局の命令を受けて検閲にあたったユグル族の大学教授が、心付けとして金銭を渡されなかったことに対する不満を、ユグル族の本作スタッフの携帯メールに綿々と書き連ねてきたのだ。検閲は彼の職務であり、李監督に金銭を送る義務など全くない。「教授にとってユグル族に関する豊富な知識は自分の金儲けの手段でしかないのです」。漢民族への同化に抗う気迫がユグル族自身になくなってしまった以上、李監督は映画を作ってはみたものの、「今はただユグル族の将来を絶望するだけです」とすっかり肩を落としている。8月29日から東京・シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。(高橋天地(たかくに)、写真も/SANKEI EXPRESS)