知床半島が世界自然遺産に登録されて10年の節目を迎えた。日本各地からキャンピングカーやバイクで旅人が訪れ、ウトロや羅臼の道の駅はいつにない混雑ぶりだ。海外からのツアーもますます盛況。羅臼の山間にある「熊の湯」は地元漁師が憩う露天風呂だが、先日湯船に浸っていると、フランス、中国、台湾など世界各地からの旅人が、熊の湯ならではの“熱湯”に悲鳴を上げつつ楽しんでいた。
そんな喧噪(けんそう)から離れ、今年も知床岬近くの赤岩の浜に入った。知床最奥の浜に残る古い番屋を修理するためだ。現在、羅臼で観光船を営む長谷川正人船長(54)がコンブ漁に使っていた番屋だが、漁をやめておよそ数十年が過ぎ、木造の番屋は年々荒廃が進んでいる。それを何とか補修するのが目的だ。
ここは知床半島のエアポケットのような場所だ。年季の入った番屋のソファに座って一息つくと、カモメとウグイスの声がまざり合って響く。弧を描く小さな浜辺をヒグマの親子が悠々と歩いてゆく。このわずか2キロほどの浜に、かつて50軒もの番屋がひしめいていたというが、今では信じられない。夏は「羅臼より人が多かった」というほど盛況だったそうだ。やがて船の性能が上がり日帰りでも漁ができるようになるにつれ、番屋に滞在する漁師は減り、この夏はついに1軒のみ。