ともすればエグい設定だが、みゆきたちを見つめる視点は、あくまでも温かい。「あっけらかんと書きすぎてしまったかなという思いもあるけれど…。でも、デリヘルをやっている子たち自身は、悲観していないと思うから」
スケッチを重ねるような抑えた筆致も印象的だ。「小説って『まるで』という言葉が多いじゃないですか。でも、今回はできるだけ『まるで』という表現を避けて、会話や行動の描写を重ねるだけにしました。あまりこちらが書き込むよりも、読む人の想像に任せたいと思って」
逃げ出したものの…
作品の中では、“福島”は“フクシマ”と記される。「国際社会の中では、記号になってしまいましたね…。でも、そこで暮らす人にとっては、フクシマはリアル。そのギャップはありますね」
執筆は故郷に向き合うことでもあった。「高校を卒業して、上京。遠くへ、遠くへ行きたかった。言葉は悪いかもしれないけれど、僕は故郷から逃げ出した人間です。一方で、福島に残ることを選んだ人をかっこいいと思う気持ちがある」