そのシナリオを想定してみる。
《×月×日夕、陸自部隊長は、国連南スーダン派遣団(UNMISS)司令部から一本の緊急電話を受けた。「○○マーケット近くでNGO(非政府組織)職員が襲撃されている。至急、救援の部隊を派遣してほしい」。陸自部隊への救援の要請だった》
陸自が拠点を置く首都ジュバの治安は比較的安定しているとはいえ、政府軍と反政府軍による内戦が続き、いつ戦闘に巻き込まれるかわからない。実際、14年1月にはジュバ市内で銃撃戦が起き、自衛隊の宿営地も武装集団に取り囲まれる緊迫した事態に陥った。
「正当防衛や緊急避難に該当する場合は命を守るために撃て」。当時の部隊長は、全隊員に武器と銃弾を携行させ、射撃許可を出した。自身の生命を守る最小限の武器使用を認めるPKO協力法の規定に基づくギリギリの判断だった。
もし、この時、宿営地から離れた場所にいるNGO職員やPKOの他国軍の救助を求められたとしても、自衛隊が現場に駆け付け、救援する法的根拠はなかった。「当時の状況を考えれば起こり得た」(陸自幹部)ことだった。