丸まった針金の先にイカの刺し身を付け、そっと岩と岩の隙間に垂らす。しばらくしてから、針金を引き上げる。「きた、きた!」。子供たちは針金の先に食いついた小さなカニの姿に歓声を上げた。
東日本大震災で大きな被害を受けた福島県相馬市の景勝地、松川浦に久しぶりに観光客の声が響いた。8月上旬、1泊2日で磯遊びや魚の観察をする初めての「エコツアー」が行われ、埼玉県から2家族計7人が参加した。
主催は地元住民で作る「松川浦ガイドの会」だ。エコツアーは、地域の海や山、農業・漁業など地元の暮らしを観光資源として、体験しながら自然を楽しむ旅。震災後、環境省の復興エコツーリズム推進モデル事業に選ばれ、ガイドの育成やモニターツアーなどを経てこの夏、商品化に踏み切った。
松川浦は、約7キロにわたる砂州(さす、堆積した砂)によって湾が外海から隔てられた「潟湖(せきこ)」。東日本大震災前は釣りや海水浴、新鮮な海の幸を目当てに年間約100万人が訪れる観光地だった。しかし、地震と大津波により砂州は一部決壊、松林はなぎ倒され、風景は一変した。東京電力福島第1原発事故の影響により、地元漁協は漁を自粛し、観光客が求める海の幸も失われた。