終幕《73年3月、室井はモスクワ行き民間航空機内で不可解な死を遂げる。乗り合わせた新婚旅行中の医師は大学教授になっていたが、記憶は鮮明だった。
「脈がなく呼吸停止、瞳孔が開いていた。東京監察医務院の判定からはクモ膜下出血や脳内出血の症状。発作後数分だった。皮膚が紫がかるチアノーゼが観られたので、嘔吐(おうと)に因(よ)る窒息や超劇症型の可能性がゼロではないが、一般的には死の兆候が早過ぎる」
教授は「死ぬ1時間前に『薬を飲み間違えた』と周りに語っており、すっきりしない一件だった」と、筆者に対し毒殺を否定しなかった》
暗殺を認める法律
ロシアの石油は今、露諜報機関やマフィアが牛耳る「危ない利権」だが、70年代のソ連には石油不足に悩む西側への外交カード。安全保障では同盟する日米が、石油獲得ではソ連にすり寄り対立する「もっと危ない利権」だった。その最前線で、室井はソ連コネクションを駆使、石油獲得を狙い失敗した。