用意されたレーシングスーツに着替え、フェイスマスクとフルフェイスの競技用ヘルメットを着用する。ヘルメットは想像以上に重さがあり、何とも言えぬ圧迫感が顔全体を包む。視界は思っていたよりも狭く、視線を下にうつしても足元が全く見えない。口元がマスクとクッションパッドで覆われているため、呼吸をすると息がこもるような生暖かい感覚がある。2時間を超える夏場のレースはドライバーにとってさぞかし地獄だろう。
乗り込みに苦労、座るのにまた苦労…
今回、筆者を指導してくれるのは若手のエース、大嶋和也選手。マシンを運転する前に、まずは乗り降りの練習を行った。レース中のドライバー交代もそうだが、万が一の事故の場合は、マシンから迅速に脱出しなければならない。まずはそのための訓練を行うのだ。これが想像以上に難しい。とにかくドアの開口部が狭いのだ。マシンに乗り込む際に、ハードルを跳び越えるように右脚を90度に蹴り上げてロールケージのバーを乗り越え、バケットシートをよけながら狭隘な空間にスルリと滑り込まなければならない。その際に右手で天井のロールケージをつかみながら乗り込むのだが、どうしてもヘルメットがルーフに当たってしまう。大人が高さ1メートル弱の空間に素早く入り込むのは容易ではない。
ハンドルは邪魔にならないよう、あらかじめ上向きに跳ね上げてある。不器用ながらもなんとか無事に座れたのだが、今度はバケットシートがとにかくキツい。172センチ、72キロと平均的な体形の筆者でも、シートに収まるとまったく身動きが取れない。ヘルメットを被っていると手元も見えづらい。その影響で、両肩、両脇腹、股下から伸びる5点式シートベルトを自分で装着することができないため、代わりに2人のピットクルーにベルトを着けてもらうことになる。走行中にかかる大きなG(加速度)に備えてガチガチに縛り上げるため、まるで自分の体がシートと一体化したような感覚だ。ハンドルを降ろして固定させたら準備は完了。乗用車を運転するときはヒジが軽く曲がる距離でハンドルを固定するのが理想的だが、車体に大きな荷重がかかるレーシングカーは腕に力を込めて素早くハンドルを切れるように、なるべく体に近い位置でセットする。