熊本・阿蘇地域は世界最大級のカルデラ周辺に広がる草原を利用した放牧が盛んだ。日本のような温暖湿潤気候の下では、草原はすぐに藪となり森林化する。その中で、野焼きや放牧によって、草原の維持と農業振興の両立を成し遂げている点が、世界でも珍しいという。
一方、大分・国東半島は保水力が弱い火山性土壌に覆われている上、山が険しく平地が少ないと、農業に不適な土地といえる。
住民は江戸時代から、数多くのため池を作り、クヌギを植林した。この結果、クヌギの木が水を蓄え、1200ものため池に流し込むという循環型農林業を確立し、多様な生態系を育んできた。この地域には、今も国の特別天然記念物に指定されているオオサンショウウオやカブトガニ、イワギリソウなどの絶滅危惧種が多く生存する。
九州大大学院農学研究院の矢部光保教授(農業環境経済学)は「山田堰や阿蘇の草原農業は、ベトナムやカンボジアの関心が高く、九大の留学生も見学している。不利な自然環境を克服した背景には地域のリーダーの教育水準の高さがある。彼らが自然環境を熱心に観察し、海外からも注目される農業システムを作ったといえるでしょう」と語った。
九州という一つの島の中にも、さまざまな風土がある。人々は、土地にあった工夫を凝らし、自然と共生しながら農業の生産性を向上させてきた。その努力が、現在の農業王国・九州につながっている。