こうした貧困や脆弱(ぜいじゃく)な政策効果の背景には、既存の社会保障制度が前提とする社会の姿が変質していることも影響している。
例えば、現在の社会保障制度は「ワーキングプア」を想定していない。働けば十分な所得が得られることを前提にしているが、現実はそうではない。
また、核家族、ひとり親、単身、老々世帯などを想定していない。3世代同居を前提としていたが、今やそれはレアケース。
さらに、人生の失敗を想定していない。学校に通い、就職して、終身雇用で働く前提であった。再チャレンジや努力を支援する制度は脆弱である。例えば、高校や大学の奨学金の大半が有利子貸与制度であることがその典型。
ワーキングプアでは奨学金も返済できず、成人後に多重債務に陥るケースも散見する。国民年金や国民健康保険の保険料未納問題の一因でもある。
ホームレスやニート、フリーター、ネットカフェ難民などの「新しい貧困」も生み出している。かつての日本社会は「平等で貧富の差がない」というイメージが一般的であったが、それは1970年当時のデータから作り上げられた固定観念だった。
相対的貧困率が公式なデータとして初めて公表されたのは2009年。実際には1980年代から所得や資産の格差が拡大し始め、現在もそれが続いている。
どこまでの格差を許容し、行き過ぎた格差をどのように是正するのか。日本が直面する深刻な問題だ。
◆トマ・ピケティ
折しも「21世紀の資本」の著者として知られるトマ・ピケティ教授が来日した。
ピケティは1971年生まれのフランスの経済学者。一昨年出版した「21世紀の資本」の英語版が昨年3月に米国で発売されると、約700ページの堅い内容の大著が米アマゾンで売り上げランキングトップに浮上。既に全世界で150万部のベストセラーである。