27日閉幕した主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)は先進7カ国(G7)が世界経済の「危機」回避のため、全ての政策をとることで一致した。安倍晋三首相はリーマン・ショック級の事態を条件としていた消費税再増税先送りへ地ならしをした形だ。一方で、首脳宣言は構造改革の実施も明記。首相は一時的な需要喚起のための財政出動だけでなく、持続的成長につながる構造改革を断行する責任を負っている。
「あらゆる政策を総動員し、アベノミクスのエンジンをもう一度力強くふかしていかなければならない」
閉幕後の記者会見で首相はこう決意表明した。消費税再増税の先送りに加え、秋にも景気対策を盛り込んだ平成28年度第2次補正予算案を編成する見通しで、力強さを欠く国内景気の腰折れ回避に万全を期す。
避けて通れないのが構造改革だ。会議では、財政出動を呼びかけた日本に「財政の柔軟性が必要」(オランド仏大統領)と賛同する声もあったが、ドイツや英国は財政規律を重視。宣言には、財政出動を機動的に実施すると同時に、構造改革を「果断に進める」との表現が盛り込まれた。
低成長からの脱却には規制緩和を通じた民間投資の拡大や産業の創出で、潜在成長率を上げる取り組みが欠かせないからだ。
伊藤忠経済研究所の試算では、2年増税を延期すれば8兆円分の財政赤字が発生し、税収増で取り返す必要がある。武田淳主席研究員は、財政健全化は遅れ、「デフレ脱却には険しい近道」になると指摘する。
安倍政権は農協改革などを進めてきたが、企業の農地所有などの規制緩和は道半ばだ。今月まとめた規制改革会議の答申でも生乳の流通自由化などを見送った。業界団体や与党内の反対論に配慮したためだ。
今年の成長戦略の素案には、企業活動の障害となる行政手続きやコスト削減などの規制改革も盛り込まれた。これをどう実行していくかが、安倍首相が「(G7で)世界に展開してもらう」と話した「アベノミクス」の真価を決めることになる。(田村龍彦)