村人は依然として道端や草むら、線路をトイレ代わりにしている。その一人、シャンティ・デビさん(32)は女性だが、夜にひっそりとガンジス川河川敷に行って用を足す。藪の中は、毒蛇にかまれたことがあり、避けたいという。「外は恥ずかしいし、怖い。それでも家のトイレでよりは清潔だ」と、デビさんは話した。
こうした状況は、ガダワリ村にかぎった話ではない。インドのあちこちで起きているのだ。
携帯電話は10億台だが…
14年5月に就任したモディ首相が、8月の独立記念日の演説で触れたのが「トイレ」だった。「女性たちは外で不便を強いられている。母や姉妹の威厳を守るためにトイレを作ることはできないのか」とぶち上げ、満場の拍手を浴びた。
インド政府は、モディ氏の強い意向で、トイレ設置計画「スワッチ・バーラト(クリーン・インディア)」プロジェクトを立ち上げた。19年までに屋外排泄ゼロを目指し、約1億2千万世帯へのトイレ新設を目指す。
世界で日常的に野外での排泄を強いられる人口は約9億5千万人と推計されているが、インドはその半数以上を占める。携帯電話の普及台数が10億台を超え、7%以上の経済発展を続ける中、トイレに関しては極めて立ち遅れている。
インドで幼児(5歳未満)の死因の17%は下痢とその合併症だが、原因の8割が排泄物に含まれる雑菌の経口感染だ。専門家からは、井戸や水源付近で排泄が繰り返され、水が汚染される状況が指摘される。
トイレがない現状は別の危険も引き起こす。UP州では14年5月、用を足すために家の外に出た10代の少女2人が複数の男に性的暴行を受け、殺害される事件が発生した。少女たちの遺体は木につるされて見つかり、社会に衝撃を与えた。各地では、このように野外で女性が性的暴行被害に遭うケースが頻発している。
排泄中に野犬や蛇に襲われることもあり、「トイレだけで身に危険が付きまとう」(デビさん)という表現は大げさではない。