「自分の生い立ちもそうですが、国籍の問題で悩んでいるひとは多くいます。お父さんは日本人、お母さんは他の国のひとで自分は日本で生まれ育ったのに国籍は日本でないとか、仕事のうえでどうしても欧州のある国の国籍を取得しなければいけないが、そうすると日本の国籍を放棄しなくてはいけないとか」
--ひとは生まれる国を選べないが、それが一生を決める大きな要素になる
「生い立ちや家族、アイデンティティーなど、ひとつの国の枠にはまらないひとたちは多くいます。それを社会は見なかったり見過ごしたり、ほったらかしにしていたり。英国籍でもノーベル賞作家になれば出身ということで日本人に含めて話題にしますが、例外的なケースです」
--国籍にかわる制度はあるのでしょうか。国籍は家柄で決まる貴族社会のように不条理だが、国家の上に個人の権利を保障する制度はないからやむを得ないという主張もあります
「それはわかります。だからメンバーシップのような、対価を払うからサービスを得られるというふうなものはできないでしょうか。民族や宗教が違っても同じメンバーとして一緒にやっていこうと、そういうふうな社会になってもおかしくないと思う。対価を払えるなら複数登録してもいいんじゃないですか」
国の恩恵に慣れ
「出自とか愛着とかひとにはいろんな帰属性がある。あっちを取ればこっちは否定というゼロサムは不自然。いまでもパスポートを2冊も3冊も持っている人は多くいます。いずれ生体認証でパスポートもなくなりそうな気がします」
--そんな時代になるのは時間がかかりそうですね
「最近、マレーシアとインドネシア、フィリピンの国境地帯にあるスールー海に暮らす海の民バジャウのひとたちを訪ねました。彼らに国の概念はないんです。かつて海に国境などなかったし、いまも国に管理されるのは気持ち悪いという。出生届がされていない人も多いが、登録したからといって恩恵があるわけでもない。彼らは自分たちで安全を守り、医療も自分たちのなかで解決してきた」