小曽根真×真山仁対談

(上) コロナ禍だからこそ伝えたいことがある (3/3ページ)

SankeiBiz編集部
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 小曽根 いわゆる「自粛警察」という問題ですね。

 真山 自粛を緩めて営業をしている店だけでなく、ルールを守って営業している店にまで、「こんな時期に金儲けか。とっとと店を閉めろ」と脅迫めいた電話をしたり、店に張り紙をするような行為が広がった。自粛は、強要してはいけないし、脅迫めいた行動に至っては、そちらの方が犯罪になりかねない。でも、その行為が「善意」から来ている場合もある。あるいは、自分が我慢しているのに、それを適当にしている人がいると「許せない」と思ってしまう。

 こういう閉塞感について、メディアも、最初のうちは知っていても黙殺していました。そこで、非力ながら自分が寄稿しているメディアなどで、「自分自身の正しさを押しつけて、多くの人を息苦しくして当然という行為は新型コロナ・ウイルスより危険かもしれない」と訴えました。同時に「無理をするのはやめよう。いつ終わるか分からない事態だから、もっと自分を甘やかして、生活の中に楽しみを探してほしい」とも。

 小曽根 それは凄いなあ。僕は、女優の妻が作家で演出家でもあった井上ひさしさんに師事していたこともあって、井上さんが、演劇を通じて平和や批判精神の大切さを訴えられていたのに、大変敬意を抱いていました。真山さんがされていることも、同じですね。やはり、批判する力のある人は、勇気を持って声を発するべきですね。

 真山 私は、井上さんには遠く及びません。でも、時に人が嫌がることを発信するのも仕事の一部だと思っています。一方で、コロナ禍の中で、余裕を失って暮らしていた人たちを、小曽根さんの音楽が癒やしたことに、芸術の素晴らしさを、改めて感じました。結局は、それぞれがやれることをして、互いを励ます。それが、この大変な時代を乗り越える秘訣なんだと思います。

※対談にあたっては、体温測定や消毒などウイルス感染拡大防止対策を講じています

 ■小曽根真(おぞね・まこと) ジャズピアニスト。1983年、バークリー音大ジャズ作・編曲科を首席で卒業。米CBSと日本人初のレコード専属契約を結び、アルバム「OZONE」で全世界デビューした。ソロ・ライブをはじめゲイリー・バートン、ブランフォード・マルサリス、パキート・デリベラなど世界的なトッププレイヤーとの共演や、自身のビッグ・バンド「No Name Horses」を率いてのツアーなど、ジャズの最前線で活躍している。2003年にグラミー賞ノミネート。2011、国立音楽大学(演奏学科ジャズ専修)教授に就任。2015年には「Jazz Festival at Conservatory 2015」を立ち上げるなど、次世代のジャズ演奏家の指導、育成にもあたる。2020年春には、コロナ禍の緊急事態宣言中、53日間に及ぶ自宅からの配信活動「Welcome to Our Living Room」も話題となった。2021年3月に還暦を迎え、全国各地で「OZONE 60 CLASSIC x JAZZ」ツアーを開催する。主な日程は下記の通り。

3月25日(木) 東京:サントリーホール 大ホール

3月27日(土) 名古屋:愛知県芸術劇場コンサートホール

3月28日(日) 秋田:アトリオン音楽ホール

4月 3日(土) 大阪:ザ・シンフォニーホール

5月22日(土) 福岡シンフォニーホール  ほか

http://www.hirasaoffice06.com/artists/view/187?artist=Instrumentalists

 ■真山仁(まやま・じん) 小説家。昭和37年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科を卒業後、新聞記者とフリーライターを経て、企業買収の世界を描いた『ハゲタカ』で小説家デビュー。同シリーズのほか、日本を国家破綻から救うために壮大なミッションに取り組む政治家や官僚たちを描いた『オペレーションZ』、東日本大震災後に混乱する日本の政治を描いた『コラプティオ』や、最先端の再生医療につきまとう倫理問題を取り上げた『神域』など骨太の社会派小説を数多く発表している。初の本格的ノンフィクション『ロッキード』を上梓。最新作は「震災三部作」の完結編となる『それでも、陽は昇る』。

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