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波乱含みの衛星携帯、激化する販売競争 大手本腰、自治体など入札相次ぐ
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国内の衛星携帯電話の契約台数
これまで一部の官公庁など特殊な用途で使われていたにすぎない衛星携帯電話サービスが本格普及期を迎えようとしている。料金の低廉化や持ち運びしやすい小型軽量の端末が登場して災害対策用通信手段として需要を喚起。NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルなど大手携帯電話事業者が販売に本腰を入れ始めたからだ。官公庁や自治体では衛星携帯電話の大量導入を目的とした入札案件が相次いでおり、激しい販売競争が繰り広げられている。
そんななかソフトバンクは2月末、通常の携帯電話と同様に端末価格が実質0円の衛星携帯電話を発売。価格破壊に先鞭(せんべん)をつける考えだ。緒に就いたばかりの衛星携帯電話市場だが、波乱含みの様相を見せ始めた。
東日本大震災で壊滅的打撃を受けた光回線や携帯電話基地局は広域で通信途絶を招いた。非常時の通信確保が自治体や企業の事業継続計画(BCP)にとって最重要課題の一つに浮上し、地上の被害に左右されない衛星携帯電話が脚光を浴びた。
従来型の衛星携帯電話は端末料金が30万円前後と高価だったが、総務省が震災を機に低価格な新サービスの導入を推進。昨夏からドコモやKDDIなどが英インマルサットの「アイサットフォン・プロ」を発売。端末価格は8万9800円、通話料金は1分160円、月額基本料が4900円と従来サービスに比べて大幅な低価格化を実現し、自治体や企業への売り込みを競っている。
総務省の調査によると、2011年度の国内衛星携帯電話市場は9万7128台で、前年度比16%も伸びた。もともと「利用層が同じで市場が固定していた」(NTTドコモ法人事業部)ため、年間数%の成長にとどまっていたが、11年3月11日に発生した東日本大震災を機に需要が急拡大した。「12年度は10万台は超えるだろうし、5年から10年は成長が続く」(同)とみており、規模こそ小さいが有力な成長市場として注目されている。
自治体の導入を後押ししているのが、内閣府の衛星携帯電話導入補助金制度だ。災害時に孤立する恐れがあるとされる集落が全国に1万9000カ所あり、国が導入費用の半額を助成し、万一に備えた通信確保を支援している。11年度は1000カ所以上の集落に配備されたもようだ。
需要増大とともに販売競争も激しさを増している。官公庁や自治体の入札では大手通信事業者に加え、衛星通信サービス専業の日本デジコム(東京都中央区)や代理店など各社が参入。1件当たり数十台から数百台規模の大型案件では“戦略的価格設定”も常態化。営業現場では激しい情報戦が繰り広げられている。
アイサットフォン・プロの場合、「実勢価格は5万円を切っている」(竹井裕二・日本デジコム社長)が、場合によってはさらに安い見積もりも飛び交うとみられている。事実、ドコモやKDDIも当初の価格表示は「オープン価格」に変えた。
アイサットフォン・プロの投入によって、両社の従来型機種の販売も上向いている。「(従来型機種と)食い合ってしまうかと心配していたが、相乗効果が出ている」(KDDIソリューション営業本部)。大震災後、顧客の注目度が一挙に増したことが大きな要因だ。
各社の競争が激化するなか、ソフトバンクモバイルが2月末に発売予定の「スラーヤ」が台風の目となりそうだ。スラーヤは、アラブ首長国連邦(UAE)の衛星を利用したサービスで、通常の携帯電話並みの小型軽量と端末価格が5万5000円前後と最安値に設定する。
しかも、端末価格を毎月の通信料金から割り引く方式で実質0円とするため、初期投資を大幅に抑えられる。通信料金も月額2000円の追加で1分40円と4分の1に引き下げる。KDDIは「(価格破壊で実績のある)ソフトバンクだけに気になるが、10万規模の市場でどこまでやるのか」(沢池宣英・ソリューション営業本部メディア営業部担当部長)と警戒している。
ドコモも「コストと品質・安心感という相反するニーズがあるが、どこに重きを置くか、見極めていきたい」(法人事業部の横島聡・衛星ビジネス・販売推進担当課長)と慎重な姿勢をみせる。
KDDIやドコモは先行の利を生かし、市場拡大に備えたサービス態勢の整備を急ぐ。KDDIはデータ入力などきめ細かな顧客サポートを充実。ドコモは受付窓口の拡大やタッチ&トライによるユーザーへの訴求を強化する考えだ。
1億3000万台の携帯電話市場に比べると、衛星携帯電話はごく小さな市場に過ぎないが、災害時のほか山岳や海上など厳しい状況下での通信確保に欠かせない。衛星携帯電話の重要性は増す一方だが、早くも生き残りゲームの様相が垣間見えてきた。(芳賀由明)