ニュースカテゴリ:企業
サービス
南米の将来性に注目、食料一貫体制急ぐ 大手商社、集荷網と消費地開拓へ積極投資
更新
大手商社が食料事業への投資戦略にアクセルを踏み込んだ。三菱商事は今年に入り、米国やブラジルの集荷大手の買収を決め、丸紅は米穀物メジャー第3位のガビロン買収に向け手続き中だ。三井物産も豪州などの穀物会社に資本参加しており、生産地での集荷力や調達力の強化を急ぐ。
一方、中間層が急増する中国やインドネシアなどの消費市場拡大を見越し各社とも加工工場を建設、穀物の調達から加工までの一貫生産体制を築く。強化した穀物集荷力を成長するアジア市場開拓に生かす。
各社が産地対策で照準を合わせるのが、2012年に世界最大の大豆生産国に躍り出たブラジルなど南米だ。ブラジルの穀物輸出は20年に12年比49.8%増の5440万トンに増える見通しで、各社はこの将来性に注目する。
三菱商事は5月、ブラジルの集荷大手セアグロを子会社化。丸紅は港湾ターミナルに出資し輸出拠点を押さえる。三井物産は子会社化した農業生産法人マルチグレインの集荷網に加え、物流効率化で収益向上を図る。
ただ、穀物調達は干魃(かんばつ)など天候に左右されるだけに「調達先の多様化はリスク回避のために不可欠」。豊田通商はアルゼンチンの大手ニデラとの提携を深めたい意向だ。三菱商事もブラジルのセアグロ株を譲り受けたアルゼンチン企業と近く戦略提携、米国、ブラジルに次ぐ新たな産地での足がかりを狙う。
北米や南米の穀物の向かい先は中国。その爆食ぶりは健在で12年の大豆輸入は前年比6.6%増の5920万トンと世界貿易の約7割を占める。
大手商社幹部が「中国の穀物輸入は別次元」と驚くほどで、かりに商社が産地対策で手を緩めれば「バイイングパワーを強めた中国企業に買い負け、日本向けの安定供給が脅かされかねない」(大手商社)。こうした懸念が投資を後押しする。
中国の爆食ぶりは、中国最大の食肉会社の双匯(そうかい)国際が今年5月末に、47億ドルで世界最大の豚肉生産の米スミス・フィールド・フーズを買収したことでも立証された。ある商社幹部は「うかうかしていると国策で動く中国企業に食料関連の投資先をさらわれる」と警戒する。
所得水準の上昇に伴い食の西洋化が進むアジア。中でも各社が照準を合わせるのが2億4000万人と世界第4位の人口を持つインドネシア。製粉事業やパンの生産販売に力を入れる。
インドネシア財閥のサリムグループと敷島製パン、双日が1996年に合弁でスタートしたパンブランド「サリ・ロティ」は、伝統的なコメ食文化の中、日本流の柔らかな菓子パンでブームを巻き起こした。
自転車部隊が路地裏を走り回り、チョコやジャムパンなど甘い物好きなインドネシア人のハートを射止めた。加えて同グループ傘下のミニスーパーがもつ約8000の店舗網を武器に、12年の売り上げは120億円と前年比46%増加した。
「(日本市場が約1兆4000億円だから)将来は3兆円市場に膨らむ可能性もある」(双日の市川善和小麦事業課長)との予測から年内に2工場を新設し、10工場体制で市場囲い込みに挑む。しかし強力なライバルも参戦する。昨年10月に進出を決めた日本国内最大手の山崎製パンで、日本勢との競争は激しさを増す。
パンや麺市場の成長を当て込み製粉事業への参画も相次ぐ。三菱商事は4月、同国3位の大手製粉会社に資本参加。豊田通商も、11年に投資したマレーシアの食品大手マライアンフラワーミルとインドネシア食品大手の合弁で同国に建設中の製粉工場が年内にも稼働。「市場がブレークする最高のタイミング」(早田元哉執行役員)で本格攻勢をかける。
アジアを攻めようと豪州の集荷力を強化した住友商事は昨年、シンガポールの製粉・食品大手プリマと豪州の冷凍パン生地事業を買収。ここで成功したビジネスモデルをアジアでも展開できるか探る。ベトナムでは韓国食品最大手と組み、小麦粉や揚げ物向けミックス粉工場を稼働させる。
アジア市場の先も見据える。三井物産は「将来の販売先になる中東やアフリカ開拓のほか、加工事業に乗り出したい」(飛鷹裕之・穀物物流部長)と次の一手を模索する。
2020年を展望すると、人口増加や経済成長を背景に食料は将来の成長分野。安定収益源としても魅力的で、各社は穀物集荷から加工による消費市場まで押さえる考えだ。(上原すみ子)