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コメ先物取引が低迷する背景 「マネーゲーム反対」JA主張に正当性はあるか

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コメ先物取引が低迷する背景 「マネーゲーム反対」JA主張に正当性はあるか

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コメ先物取引の1日平均の出来高(月別)(大阪堂島商品取引所)  8月7日、農林水産省から試験上場の2年延長の認可を受けた、大阪堂島商品取引所(大阪市西区)のコメ先物市場。2年前に72年ぶりとなる悲願の上場を果たしたが、これまでの取引は採算ラインを大きく割り込んだ。延長中に改善できなければ、2年後の「本上場」は難しくなる。低迷の背景には、日本のコメ市場の大部分を握る「王者」JA(農協)グループの存在がある。だが、「マネーゲーム」反対を唱えるJAに正当性はあるのだろうか…。

 JPXへの合流も選択肢!?

 課題は市場の出来高。上場開始の平成23年8月は3837枚(枚は最低取引単位。1枚は関東産コシヒカリ6トン、北陸産コシヒカリ3トン)と幸先の良いスタートだった。しかし、その後は1000枚前後と低迷し、堂島商取の弾く採算ライン4000枚には遠く及ばない。

 堂島商取にとっては今後2年間が正念場だ。試験上場の延長を認可した農水省は、現状より出来高が伸びなければ、本上場や試験上場の再延長を認めない方針。

 堂島商取では、コメ以外に大豆なども扱うが、全取引の約7割を占めるコメ先物がなくなれば、「経営は成り立たなくなる」(関係者)。

 このため、傘下に東京、大阪両証券取引所を持ち、今年3月に商品先物取引への参加を表明した日本取引所グループ(JPX)に入ることも検討しているという。

 「マネーゲームだ」

 コメ先物市場の試験上場2年延長を受け、JAグループの総合的な指導機関「全国農業協同組合中央会」(JA全中)は早速、万歳章会長名で上場廃止を求めるコメントを発表した。

 「われわれはコメ先物取引に反対であり、引き続き取引には参加せず、上場廃止に向けた運動を展開する」

 JAグループ幹部はコメ先物を「投機的なマネーゲーム」と指摘する。

 全国のコメ流通量の約半分のシェアを握るJAにとって、「先物市場が広がれば、JAの価格決定権が脅かされる」との“本音”も見え隠れする。

 株式と同様、コメ先物市場で付いた値は現物価格の指標にもなるため、JAは抵抗しているようだ。

 かつて、JAは政権与党である自民党の“大票田”といわれ、自民党も食料自給率を守る観点から、さまざまな農業保護策を取ってきた。

 しかし、安倍晋三政権が、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加に踏み切ったため、猛反発。700%を超える高い関税率に守られているコメの関税率が大幅に引き下げられれば、「安い輸入米に対抗できない」と主張する。

 コメ先物取引にしても同様で、「JAの既得権が次々と奪われ、影響力が弱体化してしまう」(関係者)という危機感があるようだ。

 先物価格は農家に「有益」

 JAが「マネーゲーム」と批判するコメ先物取引だが、過去2年の試験上場の値動きで投機的な乱高下はほとんど見られなかった。

 現物の公設取引所だった「全国米穀取引・価格形成センター(コメ価格センター)」が平成23年に解散し、国内の需給の変化を素早く映すコメの価格指標は先物市場しかなくなった。

 コメ先物市場が発信する早くて的確な情報は農家の経営に役立ち、農業競争力の強化にもつながる。相場が下がれば、「ブランド米が供給過剰されている実態がすぐに分かる」(関係者)からだ。

 実際、卸最大手の神明(神戸市)が今春、コメ先物取引を始めた。

 JAが価格決定権を握る国産米の相場について、「やや高い」と不満を漏らす他の卸業者もコメ先物市場に前向きで、消費者にとっても買い求めやすいコメが増えるはずだ。

 海外取引所も虎視眈々(たんたん)

 中国の鄭州商品交易所は、日本のコメと同じ短粒種(ジャポニカ米)先物の上場を検討しており、年内にも上場が認められる。

 中国で取引が本格化する前に日本の取引を増やさなければ価格決定力を中国に奪われかねない。そうなれば、日本米の輸出価格は、中国の先物価格を参考に決められ、大幅に値崩れする可能性もある。

 5年ごとの国の統計調査(農林業センサス)によれば、22年の水稲収穫農家(米作農家)は115万戸と、45年間で4分の1にまで減少した。農業自給率も低下しており、今後は日本の人口減少も加速する。

 消費者目線のコメ作りを強化し、国産米の輸出競争力を高めなければ、国がどんなに保護策を打ち出してもいずれ農家は衰退してしまうだろう。

 参院選の圧勝で、「ねじれ国会」を解消した政府与党は、今こそ毅然(きぜん)とした態度で農業改革に取り組むべきだ。TPP交渉とコメ先物取引は、その“試金石”になる。

 政府の“本気度”がコメ先物市場活性化のカギを握りそうだ。

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