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【底流】官邸主導で決着した羽田発着枠 深まる溝…利用者不在のひずみ
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羽田空港に駐機する全日空機(ANA)と日本航空機(JAL) 来春拡大される羽田空港の国際線発着枠(昼間帯)16往復分の配分で、国土交通省が日本航空5に対し、全日本空輸11と優遇したことが波紋を呼んでいる。
国交省は公的資金でスピード再建した日航と全日空との間の経営格差をなくし、公平な競争環境を確保するためと説明した。だが実際は、民主党政権下で再建した日航に対する自民党の反発から「官邸主導で決まった」との見方が強い。官民の溝は深まるばかりだ。
「ドイツ行き2往復分がすべて全日空に行った影響は大きい。決定のプロセスが不透明で不公正だ」
4日の会見で日航の植木義晴社長は語気を強めた。これまで羽田の国際線発着枠は両社が8往復分ずつの均等配分だっただけに。日航は同日、決定に至った経過を説明するよう国交省に要請。回答の内容次第では行政訴訟に踏み切る可能性も示唆し、対立の姿勢を鮮明にした。
羽田の国際線は、1往復分あたり年間100億円の売り上げ増につながるとされる「ドル箱路線」だ。今回の配分により、航空連合スターアライアンス加盟のルフトハンザ航空と全日空は、ドイツ便で日航に比べ圧倒的な優位に立つ。フランクフルトを経由した乗り継ぎ需要も多く、ビジネスチャンスは大きい。
全日空の海外路線拡充に強い危機感を抱く日航は、航空連合ワンワールド加盟のフィンランド航空とともに、ヘルシンキ経由での欧州便で顧客の取り込みを図る考え。だが実績作りはこれからだ。
日航の平成25年3月期の連結最終利益は1716億円で、全日空を傘下に持つANAホールディングス(431億円)に比べ4倍近く多い。公的資金による経営再建の過程で、経営の重しだった財務負担が軽減されたのが好業績の要因の一つだ。
自助努力だのみの全日空と、公的資金により財務健全化を果した日航の“格差”を、国交省は「競争環境のゆがみ」と判断した。今回の枠配分では、ベトナム、インドネシアといった新興成長国行きの路線もすべて全日空に配分された。「ゆがみはある程度、埋め合わせられた」(航空局)という。
こうした極端な配分には「官邸の強い意向が働いた」との指摘がある。政府筋は「当初『日航はゼロでもいい』という意見もあったが、何とか全日空11、日航5の水準にした」と打ち明ける。
官邸の意向を受けた国交省は『(平成28年度までの)日航の中期経営計画の期間中は投資・路線計画を監視する』という昨年8月の方針に着目。この方針をよりどころに「日航にとっての新規路線を認めない」との手法をひねり出したという。
こうした政治的判断の背景に、“反民主党”で結びついた自民党議員と全日空の関係を指摘する声は少なくない。もともと日航の再建計画に不満を持っていた全日空が、政財界に強く働きかけた結果だという。
加えてV字回復した日航の業績が、今回の配分を正当化させた。日航の再建に活用された会社更生法は、再生手続きの中では透明性が高いとされる。だが、法人税減免などの優遇は、同業他社との競争で不公平感を生む要因となった。
民主党政権下で日航再建に協力した冨山和彦・元産業再生機構専務は、「歪曲(わいきょく)した競争を修復するなら、日航再建の出口は東証1部再上場ではなく、全日空も参加できる入札にすべきだった」と指摘する。
発着枠の割当に限らず、日航に対する批判的な見方はいまだ根強い。日航は7日、欧州航空製造大手エアバスから新型機「A350」を31機、購入すると発表した。
9500億円の巨費を投じ、国際線の中距離路線などで使用する米ボーイング社「777」の後継機と位置づける大きな経営判断だ。