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【底流】崩れた電力独占“仁義なき戦い” 首都圏攻略を狙う関電と中部電
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首都圏が、国内電力各社の“草刈り場”になろうとしている。中部電力と関西電力が今夏、首都圏で電力小売りに乗り出すとぶち上げたからだ。価格は東京電力より割安に設定する見通しで、電力10社の「地域独占体制」が崩れ始めた。競争が厳しくなれば各社の体力は損なわれる。一方で、利用者には電気料金が安くなるメリットもある。(藤原章裕)
「東京(首都圏)エリアは大きな市場なので、長い目で検討していきたい」
中国電力の小畑博文副社長は10月中旬、都内での記者会見で首都圏参入に興味を示した。だが、同社は原子力発電の比率が低く、島根原発(島根県)の再稼働も見通せないため、11月の電気料金は7544円と電力10社中4番目に高い。
小畑副社長は「現在の料金では(参入しても)東京の顧客の理解を得るのは難しく、当社の収支も苦しい」とし、進出のタイミングについては「原発の再稼働後に考えたい」と慎重に言葉を選んだ。
既に首都圏参入を表明しているのは関電と中部電だが、虎視眈(たん)々(たん)と参入のチャンスをうかがう中国電のような動きは他の電力各社にも広がりそうだ。
10月25日に都内で会見した北陸電力の久(きゅう)和(わ)進社長も「小売りの全面自由化を控え、どう対応すべきか考えている」と話した。
関電の担当者は「電力需要の伸びが見込めるのは、今や2020年の東京五輪開催に沸く首都圏ぐらいでしょう」と打ち明ける。
同社が首都圏での電力小売り参入を発表したのは9月20日。子会社の関電エネルギーソリューション(Kenes)を通じ、来年4月から企業などの余剰電力を買い取り、販売する。
Kenesの松村幹雄常務は「将来的には、発電設備の保有を目指す」と意気込むが、具体的な売上高や販売量の目標は未定で、「前のめり」の印象はぬぐえない。それでも、関電が首都圏での電力小売りを急ぐのは、関西圏の需要低迷という切羽詰まった事情があるからだ。
同社の平成24年度の販売電力量は1417億キロワット時と東日本大震災前の22年度比6%もダウンした。深刻な電力不足に加えて、関西経済を引っ張ってきたパナソニックやシャープなどの不振もあり、「右肩上がりの需要の伸びは見込めなくなった」という。
かつて、関電の発電電力量に占める原子力の割合は約6割と、電力各社の中で群を抜いて高かった。しかし、福島第1原発事故に伴う原発停止が経営を圧迫し、2期連続で2400億円超の連結最終赤字を余儀なくされた。
首都圏での電力小売りが、ただちに関電の危機を救う切り札にはならないが、苦境の中で現状に甘んじるわけにはいかなかった。電気事業連合会会長として10月25日に記者会見した関電の八木誠社長は「顧客ニーズに応える選択肢の一つ」と説明した。
一方、万全の態勢で首都圏攻略を狙うのが、中部電だ。同社は10月1日付で新電力のダイヤモンドパワー(東京)を買収。さらに、三菱商事、日本製紙と組んで静岡県に出力10万キロワット級の石炭火力発電所を建設し、28年5月の稼働を目指す。発電した電力は、ダイヤモンドパワーが首都圏で販売する。
東京都が10月、都立施設の電力調達先を東電からダイヤモンドパワーに切り替えるなど、首都圏での顧客争奪戦は表面化し始めた。
首都圏は、全国の電力需要の3割を占める東電の牙城だった。同社の販売電力量は関電や中部電の約2倍もあり、本来ならつけいる隙はなかったはずだ。
しかし、東電は原発事故で自らの城を守る力を失った。10月1日現在、東電管内で新電力と契約している顧客は2万8000件(560万キロワット)を超え、昨年4月1日時点の1万6550件(430万キロワット)から大幅に伸びた。
「首都圏の電力需給がピンチにならないのは、新電力の参入があってこそだ」と、東電の担当者は淡々と解説する。しかし顧客が無制限に奪われれば、東電の経営はますます悪化する。
関西のメーカー幹部は「東電の弱みにつけ込んだやり方で、ある意味えげつないが、関電と中部電の必死さも分かる」と語る。首都圏を舞台に電力各社の“仁義なき戦い”が始まろうとしている。