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中小企業
後継者に悩む中小企業、M&Aに活路 仕組み整備に課題
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日本M&Aセンターの成約件数 経営者の高齢化などで後継者不在の中小企業が、M&A(企業の合併・買収)に活路を見いだすケースが増えている。中小企業のM&A仲介で大手の日本M&Aセンターは、2013年3月期に成約件数が初めて200件を突破。今期もそれを上回るペースで推移する。地方には後継者はいないが黒字経営で価値が高い企業は多く、今後、さらに注目度が高まりそうだ。
「会社には売り時がある。上り調子の今がその時だ」
北欧の生活雑貨や健康関連商品の輸入卸売りを行うアペックス(群馬県高崎市)のビューエル芳子社長は数年前、娘や息子ら家族にそう切り出し、会社を売却する意向を打ち明けた。
≪社長の平均年齢59歳≫
同社は10年以上にわたって右肩上がりの成長を続けている。だが、「市場は近い将来頭打ちになる。会社を継がせるのは難しい」-。家族は一様に驚いた表情を浮かべたが、母の決断を尊重し、受け入れたという。
帝国データバンクが約41万社を対象に実施した調査(2011年)によると、全体の3分の2は後継者が不在だった。年商1億円未満では7割を超えた。後継者を育成せずに経営者が高齢化。事業承継がうまく行われず、倒産・廃業するケースも増えている。調査時の社長の平均年齢は59歳7カ月。高齢化は着実に進み、放っておけば、事業が立ち行かなくなる。決断は早ければ早いほどいい。
家族会議後、アペックスのビューエル社長は、日本M&Aセンターを通じ、買収を希望する100社の中から10社と面談。会社の理念に共鳴できた、お茶や健康食品などを通信販売するティーライフ(静岡県島田市)と合意する。
東京での初対面のとき、ティーライフの植田伸司社長は開口一番、「M&Aが実現しなくても、今後取引していきたい」とビューエル社長に熱意を伝えた。100社の中から選んでくれたことが、何よりもうれしかったという。
その瞬間、ビューエル社長は「パートナーとしてみてくれている。この会社とならやっていける」と確信。初対面の1週間後には両社がM&Aの手続きを進めることに合意。数カ月後の12年10月、正式調印した。
ティーライフの子会社となった後も、ビューエル社長は代表権こそないものの社長にとどまった。アペックスの従業員は全員の雇用が確保され、待遇も改善できた。
日本M&Aセンターの三宅卓社長は事業承継のM&Aについて、「唯一のハッピーになれる解決策」とまで言い切る。
≪信金と情報交換も≫
ただ、成功例ばかりではない。買収には「業績不振な企業がのみ込まれて解体される」という悪印象もある。デロイトトーマツコンサルティングの調査によると、M&Aが成功したと自己評価している企業は、わずか36%にすぎない。
そこで、M&Aをめぐる環境の改善に乗り出す動きも出てきた。東京都事業引継ぎ支援センターは、金融機関でM&Aの経験があるスタッフをそろえ、都内の信用金庫と定期的に情報交換会を開催するなどし、最適なM&Aの組み合わせができるよう支援している。
技術力や競争力のある中小企業の安定した事業承継は、日本経済の基盤強化に不可欠。無益な倒産を防ぐためにも、M&Aを円滑に進める仕組みをいかに整備できるかが、今後の課題だ。(佐竹一秀、松村信仁)