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中小企業、ミャンマー進出に先陣 大手との人材争奪戦懸念
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ヤンゴン日本人商工会議所会員数 中小企業のミャンマー進出がIT分野を中心に加速している。質の高い人材が豊富で消費市場としての潜在力も高い同国に、活路を求める大企業も少なくない。ただ、大規模な投資を伴う大企業は決定までに時間がかかることもあり、小回りの利く中小企業の進出ラッシュが際立つ形になっている。一方、人件費が上昇する中で大手に人材を引き抜かれるなど中小企業の悩みも尽きない。
「イッチ、ニィ、サン、シ」
最大都市ヤンゴン市。企業向けシステム開発の第一コンピュータリソース(DCR、名古屋市中区)の100%子会社、ミャンマーDCRの従業員が日本のラジオ体操で体を動かす。2008年7月に、日系IT企業として初めてミャンマーに設立された同社の赤畑俊一社長は「メンタリティーが日本人に近く、仕事もやりやすい」と話す。
DCRは02年に中国・北京に拠点を開設したが、人件費高騰を受け東南アジアへの進出を検討。質の高いIT系人材が豊富なことがミャンマー進出の決め手となった。事業は軌道に乗り今や従業員は200人規模だ。
一方、eコマース(電子商取引)システム開発のスターフィールド(東京都新宿区)は、開発コスト削減を狙い昨年6月にミャンマー拠点を設立。検討開始から設立までわずか半年足らずというスピード進出だった。
海外進出企業などを支援する会計事務所、東京コンサルティングファーム(東京都新宿区)は、民主化の翌年に当たる12年6月に子会社を開設。着実に実績を残している。
同社の田附浩明ミャンマー法人マネジャーは中小企業の同国進出が急増している背景について「大企業は進出計画の決定に時間がかかるのに対し中小企業はトップダウンなので決断が速い」と分析する。
13年11月に帝国データバンクがまとめた調査結果によると、ミャンマーに新たに進出した企業のうち、売上高1億円以上10億円未満の中小企業は前年同期比で8割増となり、最大の伸びを示した。
日本国内の市場が縮小するなか、中小企業にとって海外市場の開拓は急務だ。中国との関係が冷え込み、生産・投資の中国集中を避ける「チャイナ・プラス・ワン」の動きが活発化している。中でもミャンマーは6000万人超の消費市場と質の高い労働力を持つ最も有望な進出先の一つといえる。
ただ、同国での事業環境の先行きにはいくつか不安もある。最大の懸念が人件費だ。ASEAN(東南アジア諸国連合)各国で一般工の賃金は相対的に低いものの、マネジャークラスは奪い合いが起き、「急激に賃金が高騰している」(東京コンサルティングファームの杉山裕美駐在員)という。
多くの中小企業は安い人件費を当て込んで進出したものの、大企業との争奪戦になると資金力の面で分が悪い。優秀な人材は待遇の良い職場を求めて転職していく。
東京コンサルティングファームの田附氏は「当社でも新卒を採用し育成しても、2、3年すると転職してしまう。だが、無理に引き留めることはしない」と半ばあきらめ顔だ。
それでも「電力、交通などのインフラ整備が山積しており、ミャンマーの経済発展はしばらく続く」(日本貿易振興機構海外調査部の小島英太郎課長代理)といい、将来性に間違いはない。
進出した中小企業には、目の前の課題を克服しながら着実に事業を育てる取り組みが求められそうだ。(佐竹一秀)