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【ニッポンの力】日本の農業にもグローバル化の流れ 「3本の矢」が成功のカギ

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【ニッポンの力】日本の農業にもグローバル化の流れ 「3本の矢」が成功のカギ

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タイに輸出される「あきづき」を披露する稲葉本治下妻市長(左)と海老沢守男市果樹組合連合会長。輸出に活路を見いだそうとする農家は少なくない=2013年9月、下妻市  日本の農業は大きな転換点に差し掛かっている。これまでは所得水準の高い1億3000万人の良質なマーケットを前提に成り立っていた。だが、人口は少子化により減少局面にあり、加えて高齢化で1人当たりの食料摂取量の減少が見込まれるため国内マーケットは加速度的に縮小すると予測される。さらに環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)、自由貿易協定(FTA)などの貿易自由化は世界的な流れとなり、各枠組みの賛否はさておき、農産物貿易の構造の大きな変化は不可避だ。国内マーケットの縮小と貿易自由化という大きなトレンドを前に、これまでのドメスティックな日本農業はグローバルな産業への変革を迫られている。そこで農業のグローバル化のための方策を3つの視点から見てみよう。

 新興国中心に高評価

 1つ目が農産物輸出だ。日本の農産物はアジア新興国を中心に高評価を得ている。現地のデパートや高級スーパーマーケットには日本産のリンゴやイチゴが日本国内の何倍もの高値で販売され、高級レストランではブランド和牛が存在感を示す。日本酒やしょうゆなどの加工食品や水産物とともに「日本産は高品質」というブランドイメージが醸成されている。

 しかし、日本産に対する高い評価にも関わらず、農産物の輸出は伸び悩んでいる。原発事故に伴う各国の規制もあるが、根本的な課題として値段の高さが挙げられる。現地の日本産農産物は所得水準の高い日本人駐在員でも手の出せない高値であることが少なくない。急速な経済発展を見せているとはいえ、高級品を購入できる消費者層は限られる。

 日本産農産物の価格の高さの一因が輸送コストだ。要因として1回当たりの輸出量の少なさが挙げられる。コスト削減には地域単位で小口で行われている輸出を都道府県の枠を超えて広域で集約することが有効だ。また、複数温度帯管理などの技術的課題はあるが、複数品目の農産物や加工食品との混載も重要である。

 ただし、水産物、林産物、加工品を含めた農林水産物全体の輸出額は2012年時点で4497億円、目標額でも1兆円にすぎない。これは農林水産業の総生産額約10兆円(うち農業は8兆2463億円)の1割でしかない。縮小する国内を成長する海外で補完することは可能だが、輸出だけでは農業を劇的に改善できない事実を念頭に置く必要がある。

 輸出に次いで海外マーケットへのアプローチとして注目されているのが、新興国などで現地生産・販売するビジネスだ。自動車や家電などの工業製品と同じように農業にも日本の高い技術と現地の豊富で安価な土地、人材を組み合わせることで、現地の経済状況に合わせた農産物を生産できる。既に意欲的な農業法人などが海外進出リスクを乗り越え、日本人が作った野菜や果物が東南アジアや中国の小売店に並んでいる。

 日本からの輸入農産物は現地マーケットの最上位を占めるブランド品だが、現地生産された「日本式農産物」は1つ下のカテゴリーに属する準ブランド品となる。輸入品と日本式農産物を組み合わせたジャパンブランドを構築することが認知度向上と販路開拓のポイントだ。

 現地生産・販売モデルは、現地農場に高度なノウハウを提供する「のれん分け」ビジネスである。農業知財で海外から収入を得る新たなモデルは、技術・ノウハウに優れるが土地や資金に乏しい日本農業に適した形態と考える。海外マーケットから得た資金を基に持続的な研究開発を行い、日本農業の優位性をさらに高めることができる。海外進出を狙う農業法人は多く、現地生産・販売モデルは今年、日本農業の新たなトレンドとなるだろう。

 外食産業も国産志向

 農業のグローバル化戦略では海外展開に目が行きがちだが、忘れてはいけないのが、いかに国内マーケットを守るか、という視点だ。コストを重視する食品加工や外食・中食業界で、農家は安価な輸入農産物の攻勢にさらされている。消費者が産地を含めて吟味する小売店では国産農産物が強いが、産地が直接見えない加工品や外食などでは置き換えが起きやすい。

 一般には「品質は良いが高い国産農産物」と「品質はそこそこだが安い輸入農産物」の競合と思われているが、その対立軸の設定に落とし穴がある。国産野菜を売りにした外食チェーンが業績を伸ばしたように、外食や加工食品などの業界にも国産志向は決して弱くない。需要家のニーズを「安かろう悪かろう」と誤認識し、手ごろな価格で国産農産物を調達したいという本質的なニーズに答えられていないことが問題である。

 例えば、外食向けにコメを販売する農家が新たに開発された多収品種を用いるような工夫が考えられる。ある多収品種は一般的な品種より3~5割ほど収量が多い。白飯として食味評価するとブランド米に若干劣るがカレーライス、炒飯、丼といった料理に適している。これらの外食店をターゲットに多収品種を供給すれば、コスト削減と食味の維持を両立できる。コメに限らず、需要家のニーズに耳を傾ければ輸入品の価格攻勢の中にもビジネスチャンスがある。

 輸出と海外進出という2つの攻め方、そして需要家のニーズに合わせた守り方という「3本の矢」をそろえることが、農業のグローバル化の流れを成長のチャンスに変える鍵といえる。

 ■海外進出リスク

 農業の海外進出では「技術流出リスク」「商標リスク」「法制度リスク」などが懸念される。過去にはブランド種子の無断持ち出し、栽培装置の違法な模倣などの技術リスクが問題となった。また、「青森りんご」や「さぬきうどん」といった日本固有の農産物・食品を、関係のない現地企業が勝手に商標登録した事例も存在する。現地での知的財産登録、技術のブラックボックス化、適切なパートナー選定など、多面的なリスク低減が求められる。

 ■三輪 泰史氏(みわ・やすふみ)

 創発戦略センター主任研究員。東大大学院農学生命科学研究科農学国際専攻修了。2004年、日本総合研究所入社、10年から現職。農産物のブランド化に関するベンチャー企業の立ち上げに参画。34歳。広島県出身。

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