SankeiBiz for mobile

シャープ相次ぐ誤算…中国で競り負け“在庫の山” 円安の追い風どこへ?

ニュースカテゴリ:企業の電機

シャープ相次ぐ誤算…中国で競り負け“在庫の山” 円安の追い風どこへ?

更新

厳しい表情で記者の質問を聞くシャープの高橋興三社長=東京都港区  シャープの経営再建が、「2年目のジンクス」に陥ってしまったようだ。高橋興三社長の就任1年目の平成26年3月期決算こそ、最終損益は3年ぶりに黒字に転換したが、続く今期は当初の黒字予想から一転して赤字転落の見通しに下方修正した。高橋社長は「経営環境の変化に従来施策だけでは成長が困難になった」と述べ、主力取引銀行に“必達”を公約した中期経営計画の撤回を表明。5月をめどに抜本的な構造改革を盛り込んだ新計画の策定を目指すが、後手に回った経営の“スピード感”が試される。(松岡達郎)

 暗転

 「業績悪化を真摯(しんし)に受け止め、回復に向け不退転の決意で臨む」

 3日、東京都内で会見した高橋社長は、厳しい表情でこう語った。

 同日発表の平成26年4~12月期連結決算は、売上高が前年同期比3・1%減の2兆904億円、本業のもうけを示す営業利益は37・1%減の512億円。最終損益は71億円の赤字(前年同期は177億円の黒字)だった。

 予兆は昨秋からあった。昨年10月末に発表した26年9月中間連結決算は、上半期として4年ぶりに最終黒字を確保した一方で、中期経営計画がスタートして初めて売上高、利益ともに予想を下回っており、収益力が陰りをみせていた。

 業績悪化の原因は、相次ぐ誤算と経営環境の変化への対応が遅れたことだ。

 国内で生産して海外に輸出する主力の液晶パネル事業は、円安の追い風を受けるはずだったが、国内のライバル、ジャパン・ディスプレーなどの攻勢で価格競争に巻き込まれ、利益が目減りした。タブレット端末向けの中型パネルも計画ほどは伸びなかった。中国のスマートフォンメーカーとの取引は計画通り15社に増えたが、中国全体のスマホ販売が想定を下回り、在庫過剰に陥った。

 液晶テレビでは、北米では大型モデルの価格競争が激化したうえ、30機種以上を展開する商品戦略が浸透しなかった。逆に、国内では需要が拡大してきた高精細「4Kテレビ」のラインアップ拡充が遅れたことでシェアを落とした。

 円安進行では、海外で多くを生産する太陽光パネルや白物家電は採算が悪化したが、国内生産の回帰などの対応も遅れている。

 会見で大西徹夫副社長は「計画の方向性は間違っていなかったが、環境変化に追いつけていなかった」と反省の弁を語った。

 現実となったジンクス

 高橋社長はシャープの収益力の低下を見て取った金融機関から「2年目のジンクスにはまっていないか」と指摘され、昨秋ごろから気にするようになったという。

 2年目のジンクスといえば、スポーツで、好調だったルーキーが翌シーズンで不振に陥ったときなどに使われる。経営危機に陥った企業の場合は、人員削減や事業・資産売却などリストラ効果で1年目は乗り越えることができるが、その余地がなくなってくる2年目に落とし穴があるという意味だ。

 しかも、経営再建の2年目になると社員らに危機感の緩みや疲れが目立ってきた。このため高橋社長は昨年10月、社内でのメッセージで「短期のV字回復か、緩やかな回復さえままならない状況に追い込まれるかの岐路に立たされているのが2年目」と奮起を促していた。

 ただ、その直後の昨年10月下旬には主力の液晶事業の変調など危機の兆しが経営陣にも伝わり始めたが、「経営環境の変化への対応が遅れた」(高橋社長)という。

 誤算と後手のつけ

 「厳しい財務状況だと強い危機意識がある。前の経営危機ほどじゃないという感覚は我々にはない」

 会見で、高橋社長はこう強調した。その上で、2月から自身を含めた役員報酬を最大で55%削減することを表明し、「社内に危機感を伝える意味もある」と説明した。

 確かに、24年3月期、25年3月期に計9千億円以上の最終赤字を計上したことを考えると、27年3月期連結決算の業績予想で、最終損益が従来の300億円の黒字から300億円の赤字に下方修正するとはいえ、2年連続で巨額赤字に沈んだ「前の経営危機」のときとはケタが違っている。

 このため「この期に及んでも危機意識の薄いふわふわした幹部や社員がいる」(関係者)という。

 「買い手がつく資産はほとんど売った」(関係者)といわれるなか、乾いた雑巾から水をさらに絞り出すのは簡単なことではない。今のところ高橋社長は「希望退職は考えていない」「投資や収益の比率が液晶に偏りすぎる“液晶一本足打法”が経営危機を招いたことは間違いなく、複数の足(事業)を持つことは必要だ」と述べ、人員削減や事業売却に否定的な姿勢を示している。

 ただ、現行の中期経営計画が頓挫したいま、主力取引銀行に金融支援の継続を納得させるには、さらに踏み込んだ構造改革が求められる。

 テレビ事業の分社化、白物や複写機事業の売却、太陽電池事業の見直し、追加の希望退職…。

 想定を超えた環境変化に後手に回ったつけは、想定以上の痛みを伴う改革を強いることになりかねない。

ランキング