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【底流】相次ぐ食材偽装、関西財界に思わぬ波紋 先行き予断許さず
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食材偽装表示問題が全国に広がるなか、震源地となった関西では財界が事態の行方に神経をとがらせている。問題が発覚したホテルや旅館を抱える鉄道グループや、入居テナントに同様の問題があった百貨店などには経済団体に人材を供給する「関西財界銘柄」が多く、財界活動に影響する可能性もあるからだ。財界関係者には「現時点で活動への影響は限定的」との声は根強いが、先行きが読み切れないだけに思わぬ波紋を広げている。(内山智彦)
「今後、信頼回復に向けた仕事に全力を挙げる。関西経済連合会の会議や会合には出席しにくくなり、ご迷惑をかける」。発端となった阪急阪神ホテルズ(大阪市)の虚偽表示問題が発覚して1週間余りが経過した10月30日。親会社の阪急阪神ホールディングス(HD)の角和夫社長は、関経連を訪れ、自らの関経連副会長としての活動を自粛する考えを伝え、謝罪した。
もともと財界幹部は「食材偽装行為は許されないがグループトップが直接、責任を取る話ではない」「しっかり財界の仕事をすることで世間に返してもらいたい」などの意見が多く、角社長自身の活動を問題視する声はなかった。関係者によると財界側は「直接の当事者である阪急阪神ホテルズの出崎弘社長が引責辞任したことで、けじめはついたと受け止めた」という。
ところが、翌31日、近畿日本鉄道の系列ホテルや旅館がメニューと異なる食材を使っていたと発表。その後も京阪電気鉄道系列のホテルや高島屋、大丸松坂屋百貨店…。財界銘柄に問題が広がっていった。
近鉄は大阪商工会議所の会頭を2人輩出し、現在も山口昌紀会長が関経連副会長を務める。京阪電鉄の佐藤茂雄最高顧問は現職の大商会頭、高島屋も虚偽表示の記者会見を行った増山裕常務が関経連の労働政策委員会副委員長を務める。大丸松坂屋の持ち株会社の奥田務相談役は、平成23年まで4年間、関経連副会長だった。
ある財界関係者は「財界銘柄に軒並み広がってしまった。業界の慣習だったのかもしれないが…」と困惑を隠さない。
会員企業が起こした事故や不祥事が、財界運営に影響を与えた例は少なからずある。近年では、平成19年に大阪府枚方市の発注工事をめぐる談合事件で大林組顧問が逮捕されたことを受け、同社の大林剛郎会長が大商の副会頭や関西経済同友会の常任幹事などを辞任した。
22年2月には子会社が顧客情報を販売代理店に不正提供した問題で、NTT西日本は総務省から業務改善命令を受けた。当時NTT西社長の大竹伸一相談役は、前年には同友会の次期代表幹事に事実上内定したとされるが、正式発表は当局の処分が終わるまで持ち越された。
また、関西財界で有力な人材供給源として期待されたJR西日本は17年4月に兵庫県尼崎市内で脱線事故を起こして以降、財界活動どころではなくなった。
発端となった阪急阪神ホテルズの問題では、財界では最初の公表時の対応のまずさを指摘する声が強い。関西経済同友会の鳥井信吾代表幹事(サントリーホールディングス副社長)は定例会見で「大きな事案になれば、米国ならトップが出てきて説明する。基本的に経営トップが会見に出て説明すべきだった」と苦言を呈した。
一連の食品偽装問題について、事情に詳しい関係者は「本業に直接関連する法律での違反や、独占禁止法違反、証券取引法違反などの経済犯罪は、財界ではより責任が大きいとみなされる。今回は、子会社の監督責任や道義的な責任はあるが、財界活動に支障を及ぼすほどではない」と擁護する。
関西からの企業流出が続くことで、関西財界銘柄が減少するなか、経済団体はトップ交代などで苦労することが増えた。関西を地盤にして、引き続き関西財界を支えてくれる企業は貴重な存在で、大事にしたいとの感情が見え隠れする。同時に、厳しい批判の声や再発防止策に関する議論が大きくは出てこないことに、財界の活力や指導力の低下を指摘する声もある。
ただ、虚偽表示問題が思わぬ拡大をみせたように先行きは予断を許さない。別の財界関係者は「どの程度悪質だったかによる。今後の展開次第で悪質な事例や刑事罰に問われる事例が出てくれば、どうなるかは分からない」と予測している。
経済団体のトップ人事を中心に財界活動は「人が命」といわれる。会員企業の活動停止、企業首脳の辞任が人事の歯車を狂わすケースは多い。いずれにしても経済団体の主要プレーヤーを輩出することが期待される名門企業の足元で起きた今回の問題が関西財界の今後のあり方も問うているに違いない。