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「嫁も子もいる…だが料理人として許せぬ」 食材偽装“告発者”の憂鬱

ニュースカテゴリ:社会の事件・不祥事

「嫁も子もいる…だが料理人として許せぬ」 食材偽装“告発者”の憂鬱

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記者会見で謝罪する阪急阪神ホテルズの幹部ら。各地で相次いだ偽装問題の会見では「故意の偽装はなかった」との言葉が繰り返されたが、現場の従業員たちからは「お客さまをバカにしている」との声も上がっていた  「嫁も子もいる。生活もある。だが料理人として許せなかった」。ある名門ホテルの食材偽装表示を告白した関係者はこう語った。ホテルのレストランメニューに端を発した食材の偽装表示問題。消費者を欺き続けた偽装は、全国各地のホテルレストランや百貨店、高級料亭などにも拡大した。

 日本が誇る「食の安全」をも揺るがしかねない事態は、業界の認識の甘さがもたらした。そして、問題発覚のきっかけとなったのは会社側による調査だけでなく、料理人たちの「告発」によるものもあった。

 「こんなところで働いていたのか」

 本紙に対しても、さまざまな意見とともに、関係者から多数の告発が寄せられた。目立ったのは「あの店でも偽装がある」といった話だが、内部からの申告も少なからずあった。

 偽装が発覚したホテルの記者会見では、経営者らが当初「故意の偽装はない」「お粗末なミス」と繰り返したが、あるホテル従業員は「あの会見は、あまりにお客さまをバカにしている。総料理長や総支配人が知らないはずがない」と怒りをあらわにした。不信感を持ったのは、消費者だけではなかったのだ。

 別の関係者は「調理場に入る従業員なら誰でも知っている。なのに何で、誰も何も言わないのか」と嘆いた。「自分はこんなところで働いていたのか」。告発者たちも、名門ホテルの一員としての誇りを持っていただけに、客を欺く行為を重ねてきたことに忸怩(じくじ)たる思いがあった。

 ホテル関係者らに取材を重ねて感じたのは、経営陣と、従業員らとの間に吹く微妙なすきま風だ。組織に対する無批判な従属と、閉鎖的な体質が不正の温床となる-。

 これまでも企業の不祥事が発覚するたびに指摘されてきた構図が、この業界にもあった。企業犯罪の捜査に携わってきた検察幹部は「人は場当たり的で、何となく一線を越える」と指摘する。

 学識者らは、「商道徳が希薄になっている」ことが一番の問題だと指摘する。「嘘をついてでも実態より良く見せよう」という発想は、商売の根幹を揺るがすという警告だ。

 元流通科学大教授の吉田時雄氏(経営思想)は「『嘘をついてはいけない』というのは商売の基本だ。ブランドの本質は信用だ。それを守る意識がわかっていたら、こんなことはできないはずだ」と話した。

 食品表示や食の安全に詳しく、『ホントは怖い!加工食品の真実』などの著書がある食品問題評論家、垣田達哉さんは「食材偽装はホテル側の競争激化の中で、起こるべくして起きた。

 行政の指導が全くなかったことも原因の一つだ。取り締まりがされないため、店側が図に乗り、客寄せのためメニューに美辞麗句を並べ、最後には嘘という段階まで踏み込んでしまった」と、偽装がまかり通った背景を説明する。

 そして、「これまでも船場吉兆やウナギの産地偽装など、食材に関する問題は発覚してきたが、ホテル側はこれらとメニュー表示は違うという認識を持っていた可能性がある。やり過ぎという意識は持ちつつ、何の法律違反になるのか分からなかったのだろう」とも語り、ホテル側の問題認識の甘さを指摘。

 「あいまいな法律と業界の甘えが問題を生み出した。再発防止のためには、現在の景品表示法を改正し、抑止力として罰則と取り締まりを厳しくすべきだ」と訴える。

 ありそうで実際にはない嘘ニュースを集めたインターネットサイト「虚構新聞」を運営する社主、UK氏は…

 「食材を偽装表示した店側に非があるのは言うまでもないが、満足感の面において『真実を知らなければ誰もが幸せだったのに』という問題だったように思う。まさかあのホテルまでという驚きがある一方、マスコミが『食材偽装』というキーワードで、あらゆる事例を十把ひとからげにしてしまったところにも若干問題があるように思う。

 報道されるまで、食べる側は味の違いに気づいておらず、中には同情の余地がある例もあった。ともあれ、食材偽装は『今日も日本は平和だ』と実感できるニュースだし、今後も同じ問題は出てくるだろう。

 飲食業界も、偽装を見抜いた鋭い舌を持つ客には、偽装で浮いた原料代を原資に、その舌をたたえて金一封を送るくらいのことがあってもいいのではないか」

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