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沸き立つ“シェールバブル” 米国の採掘現場はいま…
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シェールガスが噴出する井戸=10月下旬、米ウエストバージニア州(内山智彦撮影) 世界にエネルギー革命を起こしている「シェールガス」。世界の天然ガスの採掘年数は、従来の60年とされていた想定から4倍強の250年以上に拡大している。発祥地の米国は、天然ガスの輸入国から輸出国になることが確実だ。現代版ゴールドラッシュに沸く、米のシェールガス現場を訪ね、その背景を探った。
米国北東部、アパラチア山脈の麓。ウェストバージニア州のマウンズビル市に入ると、幹線道路沿いに巨大なタンク群が現れた。天然ガスの分留設備だ。石炭が採掘されることから、元から化学関連産業の工場も立地していたが、近年、ガス関連産業の工場として使われる例が増えたという。
さらに進むと、道路沿いの空き地に「トレーラーハウス」と呼ばれるプレハブ住宅群も。掘削作業員用の宿舎として“整備”されたものだ。掘削需要の増大で、作業員が増加。住宅不足を招き、家賃は3倍強に跳ね上がっている。
周辺では瞬く間に9つのホテルも新設された。シェールが出るまでは「わずかな金属加工工場と、州の刑務所があるぐらい」(州政府幹部)だったマウンズビル市は今、“シェールバブル”で沸き立っている。行政区の首脳は「シェールは地区を変えた。新しい成長産業が生まれたことは幸運だ」と手放しで喜んだ。
それもそのはず。州全体の石油ガス業界の雇用は10%増加し、平均賃金も約19%上昇している。幹部は「経済メリットははかりしれない」と話す。
山中に通じる道路の入り口に「ガスター アクセスロード」との看板があった。「ガスター」は、この鉱区でシェールガスを掘削している会社。掘削現場まで通じる道路として、同社が自己負担で整備した。
ウェストバージニア州は8割が山林に囲まれるなど「山岳州」とも呼ばれる。豊満なシェールも人里離れた山の中にあることが多い。州政府関係者は「田舎では輸送用道路の建設費負担に応じられないことが多く、それも課題。ここではガスターが造ってくれた」と話した。
舗装のないデコボコ道を登ること約20分。シカも姿をみせる山道を登り切ると、山すそを削った「平地」が現れた。水色の巨大ポンプのような装置が5台並ぶ。「これがシェールですよ」「えっ?」
ポンプのようなものは、シェールガスを掘削済みの井戸だった。地下2千~3千メートルから噴き出るガスが吸い上げられ、ともに出る水、オイルを分離し、全米につながるパイプラインに送り込まれるという。
井戸は高さ2メートルもあるかないか。見た目もシンプルで、説明されなければ、まさかこれが“宝”を生み出す設備とは思えない。今もシェールのくみ上げが続いていると聞き、思わず目をこらしたが、当たり前のことながらガスはパイプの中。それに、そもそも気体が見えるはずもなかった。
「ここからはあと20~30年ガスが出る」。現場にいた恰幅(かっぷく)のいい陽気な中年男性が話した。噴出量を尋ねると、「知らない」とあっさり。開発しているのに知らないこともあるのかと思えば、この鉱区の地主だという。
実は、ここにも米でシェールガス革命が起こった理由が隠されていた。日本エネルギー経済研究所などによると、米のシェールガス革命には米ならではの3つの要因が影響したという。
1つ目は、国土に縦横無尽に張り巡らされたガスパイプライン。産出したガスは、すぐ各地に送ることができる。産地と消費地がリアルタイムにつながっており、市場が形成されやすかった。2つ目は、エネルギー事業者の層の厚さ。テキサスでの油田開発に代表されるよう、米では資源開発事業者が集積しており、産業の層の厚さがシェール革命を起こした。
そして3つ目は、地下資源も地主の所有となることだ。シェールの開発では、地主がマージンを得る仕組みがつくられる。大半の国では地下資源は地主に帰属しないとされているなか、事業者だけでなく、地主も利益を得る仕組みが開発を促進させているという。
訪問した場所も、地番がなく人は誰も住んでいない山地だったというが、今は“宝の山”に変身。先ほどの男性がご機嫌な様子だったのもうなずける。現代版ゴールドラッシュは、あらゆるところに波及しているようだ。
さて、本題のシェール掘削現場。井戸のある場所から少し離れたところに、クレーンのような掘削機材が1本、たてられていた。想像より相当小規模で、作業員もわずか数人しか見えない。資源開発の風景としてテレビでよく見る炎など、どこにも上がっていない。
巨大資本の石油メジャーの開発と違い、独立系の中小事業者が多いこともあるのだという。一発当てれば大きい資源開発。その構図だけは変わっていないようだ。
(内山智彦)