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【STAPキーマン 笹井氏会見詳報】(5)完 小保方氏に「弱い部分、おもんぱかることできなかった」
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会見する笹井芳樹・理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長=16日午後、東京都千代田区(小野淳一撮影) (17:00~18:22)
《午後3時に始まった会見は予定の2時間を過ぎても終わる気配はない。むしろ、質疑を求める記者の挙手はますます増えるばかりだ》
《理化学研究所の笹井芳樹発生・再生科学総合研究センター副センター長(52)に疲れた様子はうかがえない。背筋をぴんと伸ばした姿勢を保ったままだ》
《記者の質問は、iPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した山中伸弥京都大教授(51)との関係に及んだ》
《平成10年に36歳の若さで、京都大教授の座に就いた笹井氏。ノーベル賞争いでリードしているかのようにみえたものの、笹井氏を追い越すかのように山中氏が24年に受賞した。年齢が近く、研究分野の近いこの2人のエリート科学者は、常にライバル関係にあったとされている》
--1月の記者会見でのiPS細胞と比較した広報には、山中氏への対抗意識があったのではないか
笹井氏「そうしたことはありません」
《笹井氏は即座に、冷ややかに否定する。そして、続ける》
「山中先生と僕は十分に強い信頼関係を持っています。(山中氏は)私が京大を辞めた後、次を受け継がれた教授で、非常に素晴らしい人が継いでくれたと思う」
《笹井氏はこれまで「私」と一人称を用いていたが、この場で初めて、自身を「僕」と称した》
「iPS細胞は100歳を超える方の皮膚からも作れる。一方、STAP細胞は生後1週間のマウスでしか作れない。利用度の優位性が全然違う。(1月の広報で)強調したかったのは、今回の方法はiPS細胞の新手の作り方ではなく、原理が違うということ。原理が違うのであれば、iPSとは違う使い方、切れた手が再生するなど、そうした研究に繋がるのではないかと強調したつもりです」
《質疑は途切れることなく続く。次の質問では笹井氏の責任論が言及された》
--世界的に有名な科学者として、事態を引き起こした責任についてどう考えるか
笹井氏「今回、多くの混乱が招かれ、センターの幹部の1人として、副センター長として責任を感じている。広報の発信の仕方にしても、最大限、納税者からの研究費の成果をしっかり説明するアカウンタビリティー(説明責任)を発揮したいと願った」
「小保方さんのメディアでの露出は、最初の会見と翌日のインタビュー以外はしないとしていたが、私たちの想像を超え多くの動きがあった。もっと予測的な措置はできなかったのか、そういったことについて反省することは多い」
《笹井氏が記者会見に臨んだこの日、STAP細胞の真偽が問題化してから、すでに約2カ月がたっていた》
--記者会見に出てくるのがあまりに遅すぎるのでは
笹井氏「私自身は早く出て、混乱を起こしたことをおわび申し上げたいという気持ちが強くあった。声明の形でしかできなかったのは、調査委が動いていて、4月1日になるまで許されなかった。その後は、できるだけ早くこの(会見の)機会を得たいと思い、調整してもらった。遅くなったことは申し訳ない」
《厳しく責任論が問われるのは、笹井氏が小保方氏の研究に指導的立場で関わったからだけではなく、笹井氏が国内屈指の科学者であることの裏返しでもある。その目に、小保方氏はどのように映っていたのだろうか》
--小保方氏の研究者としての資質はどうだったか
笹井氏「非常に豊かな発想力があり、非常に高い集中力をお持ちであったと感じています。(小保方氏)採用時の人事委員会の皆の一致するところで、私は今もそう思います」
「しかし、(STAP細胞が問題化したことで)トレーニングが足りなかったところがある。未熟という言葉をあまり多用したくないが、(研究者としてのマナーを)身につける機会がなかった部分が多々あることが明らかになった。データ管理などでの取り間違いをするような部分で、ある種のずさんさがあったと思う。両極端が、1人の中にかなりあるのかなと」
「私はアドバイザーとして、シニア研究者として、自戒というか後悔しているのは、彼女の強い部分をひっぱりだすことを皆で助けたが、一方の弱い部分についておもんぱかることができなかった。若い研究者というのは、どこかそういう部分があるということをしっかりと認識した上で、背伸びをさせるのではなく、足下をきっちり固めるということが、自分に足りなかったのではないのかと辛く思っております」
《次に指名された記者は、小保方氏が論文の撤回を拒否している心情を「『ある』ものを『ない』のだと言うことはできないと言っているように聞こえる」と感想を述べた上で、次のような問いを投げた》
--笹井氏は「STAP細胞は有力な仮説」としながら「撤回すべきだ」と。笹井氏よりも、小保方氏の方が潔いのでは
笹井氏「批判があるので撤回はすると…、そういう聞こえ方がすることに理解はできます。自分の中でも、自問自答しているところではあるのですが、私にとって、STAP細胞は信じられない。だが、それがないと説明ができない、という不思議な心情もある。普通の論理の帰結というよりも、白黒はっきりとした検証でやらないといけないというのが何より大事だと思います」
《こう語る笹井氏に、カメラのフラッシュが浴びせられる。スーツの襟に付けた理研のメンバーであることを示すバッジが鈍く光った》
--これまで、公の場で、笹井氏が理研のバッジを付けているのをみたことがないが
笹井氏「ここに出てきた目的は謝罪…、多くの皆さんに混乱、迷惑を与えてきたことについて、アドバイザーだった者として、センターの幹部としておわびを申し上げたいというのが一番大きい。一個人としてのみならず、理研の幹部の一人として、ラフな形ではなく、正式ないで立ちというか、理研の所員として臨んでいる」
《同じ質問が繰り返される場面もあった》
--山中氏への対抗意識は本当になかったのか
笹井氏「異なる万能細胞を研究している者同士ですが、誤解されている部分があるようなのでお話しておきますと、山中先生はiPS細胞の実験をしながらも、ES細胞を使うべきではないと言われたことは一度もありません。私たちもES細胞でできないことはiPS細胞の力を借りて研究を進めようとしています」
「私たちは、より原理研究を行っていて、山中先生は研究の出口というのか、応用研究に力を入れていらっしゃる。研究費を取り合うような関係でもなく、お互いの領域を尊重しながら研究をしています。組織にも対抗意識などはありませんでした」
《STAP細胞の問題では、研究室という師弟関係を育む場所の人間関係が浮き彫りになってもいる》
--(小保方氏がかつて在籍した)米ハーバード大のチャールズ・バカンティ教授は小保方氏に「戻ってくればよい」と呼びかけたようだが、研究者として小保方氏はどのような選択をするべきだと思うか
笹井氏「『戻っておいで』というのはバカンティ先生の親心なのだと思う。ほかに選択肢がなくてバカンティ先生のところに戻るしかないというのではなく、いろいろな選択肢があるなかで小保方氏が選ぶのであれば、論文を指導した者として、どんな選択でも応援したいと思います」
《笹井氏も指導的な立場にあった研究者として「親心」をのぞかせてみせた。研究室では、どのようなやりとりがあったのか》
--論文指導はどのような場所で行われていたのか。2人きりだったのか、並んで座るようなかたちで指導していたのか。もしそうならば、研究者としての小保方氏の弱点をなぜ見抜けなかったのか
笹井氏「2人きりではない。論文を書きながら画像や図表などの操作をすることが多いので、大きなモニター画面があるような部屋で行っていました。論文に合わせて図表を選んだりするので、高い緊張感を強いられる作業です」
--不適切な関係があったと一部で報じられいるが
笹井氏「そのようなことは一切ありませんでした」
《会見開始から3時間22分。質疑を求めて挙がる手が途切れることはない。だが、司会の担当者は「これで終了とさせていただきます」と、半ば強引に会見を打ち切った》
《報道陣に向かい合う席から立ち上がった笹井氏は深く一礼すると、無数のカメラによるまばゆいばかりの閃光(せんこう)を一身に浴びながら、足早に会見場を後にした》=完