ニュースカテゴリ:暮らし
余暇
大衆化するエベレスト登山 商業公募隊の相場は最安値270万円
更新
80歳で3度目のエベレスト登頂を果たした三浦雄一郎さん(前列中央、ミウラ・ドルフィンズ提供) プロスキーヤーの三浦雄一郎さんが昨年、80歳で3度目の登頂を果たした世界最高峰、エベレスト。8848メートルの頂上は酸素濃度が平地の3分の1という極めて過酷な環境だが1953年以降、現在までの登頂者数は6千人を超えている。一定条件を満たせば普通の会社員でも挑戦できる「公募隊」が普及したのが要因で、かつては限られた人しか近づけなかった「夢の山」にアプローチする手法は広がっている。新しい年、あなたも「自分への挑戦」や、冒険の計画を練ってみてはいかがだろうか。
日本で最初に商業公募登山隊を組織したツアー会社「アドベンチャーガイズ」(AG、東京都千代田区)では、2004年に初めてエベレスト公募隊を企画。これまで14人のサミッターを誕生させた。
商業公募登山隊とは、登山のベテランがガイドとして顧客を引率する「登山ツアー」だ。ルート工作や荷上げの手配もすべて行うので、参加者は個人装備を用意して登るだけ。この普及でヒマラヤ登山は大衆化し、エベレスト頂上への難所「ヒラリーステップ」では素人がひしめき合うことによる“渋滞”が、ほぼ毎シーズン発生。1996年にはこれが要因とみられる遭難事故で日本人を含む12人が落命している。
最近はヨーロッパを代表する公募隊「ヒマラヤン・エクスペリエンス(HIMEX)」に日本人が参加するケースも増加。また、日本人ガイドが個人企画する公募隊も出始めている。
実際に商業公募隊でエベレストに登るにはいくらかかるのか。相場は650万~700万円程度。ネパール、中国両政府が課す入山料などのほか、ガイド料、荷物の運送費、登山をサポートするシェルパの雇用料、酸素ボンベ代などが含まれる。もちろん、自分の個人装備も別途必要だ。
エベレストの入山料は高額で、ネパール側の南東稜の場合、2013年は1人2万5千ドル(約250万円)。だが、グループ(7人まで)で申請すれば7万ドル(約700万円)で、7人で割れば1人当たり1万ドル(約100万円)で済む。この「グループ割」を目当てに、登山者同士で名目上は登山隊を組織し申請、実際の登山活動はそれぞれ、というのが従来の「公募登山隊」だった。ベテランに聞くと、こうした手法を駆使して日本からエベレストに登る“最安値”は現在、270万円程度だという。
では実際、今年募集されている商業公募登山隊の「価格」はいくらか。AGは春に北西稜、チベット側からの登山を企画し、48日間で650万円。一方、春に南東稜・ネパール側からの登山を企画するHIMEXは71日間で4万9500ユーロ(1ユーロ140円換算で約693万円)。ただ、カトマンズまでの飛行機代(15万円~25万円程度)などは料金に含まれていない。
だが、商業公募隊でもエベレストに挑むには一定の「条件」を満たすことが求められている。エベレスト・ベースキャンプの標高は5300メートルで、空気中の酸素濃度は平地の約半分。登山中は高度を徐々に上げて身体を順応させるとはいえ、8000メートル峰に挑む前には6000メートル峰に登っておく、というのが基本的な考え方だ。AGでも8000メートル峰挑戦希望者には、事前に6000メートル峰に登るよう勧め、未経験者の場合は参加を拒否している。
商業公募登山が企画されているのは、エベレストに限らない。近年日本でも目指す人が増えた「セブンサミッツ」も人気だ。
「セブンサミッツ」は、世界七大陸の最高峰制覇のこと。一番低い山はオーストラリア大陸最高峰・コジウスコ(2230メートル)。ただし、大陸の区分をオセアニアとすれば、最高峰はインドネシアのカルステンツ・ピラミッド(4884メートル)になるが、どちらに登っても「セブンサミッツ」の一つと数えられる。
コジウスコはリフトで1930メートルまで上がることができ、日帰り往復が可能。日本から行く場合は移動時間を含め1週間、約40万円程度とお手軽だ。
次に低いのは、南極大陸のビンソン・マシフ(4897メートル)。ただ、天候が安定しないため飛行機待ちが発生する可能性があり、予備日を含め3週間程度、450万円程度が必要だ。
アフリカ大陸最高峰のキリマンジャロ(タンザニア、5895メートル)は世界中から登山者が訪れるとあって山小屋が充実、現地ガイドやポーターのサポートで容易にチャレンジできる。ヨーロッパ大陸最高峰のエルブルース(ロシア、5642メートル)も麓がスキー場のため施設は充実。いずれも10日間、50~60万円程度でチャレンジできる。南米大陸最高峰のアコンカグア(アルゼンチン、6959メートル)になると高度順応が課題となり、3週間、100万円前後が必要だ。
セブンサミッツで技術的に難しいのは、マッキンリー(北米、6168メートル)とエベレスト。マッキンリーは3~4週間、120~140万円が必要になる。
単純計算すると、セブンサミッターになるには少なくとも140日間の日程と、1460万円の資金が必要。サラリーマンは「やっぱり遠いな…」と思いがちだが、有給を使いながら登った普通のサラリーマンもいる。
兵庫県明石市の山田公史郎さん(42)は、有給を使い、貯金を重ねて97年のキリマンジャロから16年がかりでセブンサミッツを制覇した。山田さんはいう。
「セブンサミッツを目指さなければ、もうマンションとか買えちゃってますよね。でも、キリマンジャロに登るまでは『何かをやりたいけど、特にやりたいことがない』ともんもんとしていたように思う。今は周囲の人に聞いてみたいんです。何を目指し、何を思って生きているんですか、と」(木村さやか)