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被災地、観光復興へ試行錯誤続く 戻らぬ客足、震災遺構の活用も
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東北6県と全国の観光目的での延べ宿泊者数の比率 東日本大震災の発生から2年9カ月がたつ。震災直後にはボランティアや視察団など国内外から多くの人が押し寄せた被災地は静かとなり、住民からは「このままでは忘れ去られてしまう」といった不安の声が出始めた。復興支援につながる観光のあるべき姿をめぐって、支援者と住民、行政側など関係者の思いは必ずしもかみ合っておらず、試行錯誤が続いている。
宮城県気仙沼市、気仙沼漁港近くに11月25日、震災直後から支援活動を続けている俳優の渡辺謙さんが、私財を投じたカフェ兼イベントスペース「K-port」がオープンした。設計は世界的建築家、伊東豊雄氏が手がけ、有名シェフの三国清三氏がメニューを監修する。
渡辺さんは「『復興』のかけ声を転換する時期にさしかかっている。震災前も過疎化が進んでいた地域を元に戻すのではなく、魅力ある場所にするには魅力あるコンテンツを持っていくのがベスト。思いや発想を『暖色系』に変えたい」と動機を話す。オープン前日には妻の女優、南果歩さんと朗読劇「ラヴ・レターズ」を上演した。
ただ突然、登場した都会風の建物に地元では戸惑いの声もある。あるタクシー運転手の男性は「(渡辺さん主演のドラマ)『独眼竜政宗』は好きだったけど、カフェに興味はない」。
JTBが東京からの集客も見込んで計画した鑑賞ツアーは、定員に満たず、催行中止となった。公演担当者は「わざわざ東京から気仙沼まで出かけて鑑賞しようと思ってもらえなかった様子。また、これまで多くの大物アーティストが支援公演を行っており、その中に埋もれてしまった可能性もある」と分析。
カフェの立ち上げに協力した都内の企画会社の担当者は「渡辺さんの熱意は本物でも、継続していくには相当な工夫が必要と思う」と厳しい見方を示す。
一方、沿岸部に残る震災遺構には、被害の爪痕を後世に伝える役割と、観光資源としての可能性が期待される。だが住民と行政側の意見が分かれている。
津波で気仙沼市内の内陸に打ち上げられた大型漁船「第18共徳丸」は10月末に解体・撤去された。多くの見学者が訪れていたこともあり同市は保存の道を探ったが、住民の反対意見が多かったためだ。
ある住民は「海のそばでさびていく鉄の塊を保存するのは大変。いつまでも見ていたくない」と話す。
撤去後、近くの復興商店街を訪れる人は激減。同市観光課は「船主の強い要望もあり解体はやむを得なかった。解体前の画像などは残しており何らかの形で活用していきたい」と話す。
観光庁の調査によると、東北6県の観光目的とみられる宿泊者数は今年7~9月で震災前の2010年同期比17.9%減と、震災前の水準に戻っていない。
JTBなど旅行各社は、被災地で埋もれていた観光資源を洗い出し、地域の人と交流して震災の記憶もたどる旅の商品化を進めている。
震災から一定の時間が経過したことで、被災地に「来て見て感じてもらう」体験学習の設計や、修学旅行の誘致にも本腰を入れ始めている。
「その象徴となる震災遺構の保存は不可欠。渡辺さんのような発信力のある人が作る新しい観光資源も貴重。まずは国内で関心を持ってもらい、ゆくゆくは外国人にも来てもらえるよう、少しずつ進めていきたい」と国土交通省東北運輸局の担当者は話している。(藤沢志穂子)