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【台湾 子育て事情】(上)産後はケア施設でのんびり
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台安病院の産後ケア施設。スタッフが赤ちゃんの世話をするため、母親は子育てについて学びながら、ゆっくり体調回復ができる=台安病院提供
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台北市にある台安病院内の産後ケア施設。夫の転勤で台北市に住む高沢明岐さん(28)は昨年12月、同院で長女を出産。退院時に同施設に入居した。高沢さんは「サポートがしっかりしている。ホテルと同じなので困ることがない」と話す。
施設では産後の体調に配慮した食事が出され、希望に応じてスタッフが赤ちゃんの面倒を見てくれる。子育てのための講座も毎日1時間開催。授乳の仕方もスタッフが利用者の母乳の状況を見ながら指導する。高沢さんは「授乳だけでも大変で分からないことがあった。子育ての不安な部分が施設にいると解消される。日本の友達に話すとうらやましがられます」。
日本でも需要が高まっているのが出産後の母親と赤ちゃんをケアする「産後ケア」だ。日本では施設はまだ少ないが、台湾では5~6年前から産後ケア施設が増えてきた。昨年12月で、台北市内の産後ケア施設は62カ所に上る。
台湾で産後ケアビジネスに長年関わってきた韓睿毅さん(35)は「台湾では、産後をうまく過ごせば、その後の健康は心配しなくていいと言われています」と話す。台湾では産褥(さんじょく)期に「坐月子(ズオユエズ)」と呼ばれる風習があり、母親の体力回復のため、食べ物や行動を制限していた。しかし、近年は女性が産褥期を快適に過ごせるように、と形が変わってきたという。産後は母親や義母らがサポート。周囲に支援してくれる人がいない場合、産後ケア専門の女性に依頼し、家事や育児をしてもらう。産後専門の食事のケータリングサービスもある。
2人の子供を持つ劉萱萱さん(39)は「産後1カ月は、母親は『食べる、寝る、授乳する』以外はしません」と話す。第1子のときは母親に、第2子のときには産後ケアの女性に頼み、それぞれ泊まり込みでサポートしてもらった。「夜もいてくれるので助かりました」と劉さん。
経済的に余裕がある場合の選択肢が産後ケア施設だ。1泊7千台湾元(約2万4千円相当)前後が多い。台湾の平均給料は約4万6千台湾元(約16万円相当)のため、費用は高額。しかし、需要が高まり、施設は増えている。2週間~1カ月利用の人が多く、夫も個室に一緒に泊まるのが一般的だという。
セレブ向けの産後ケア施設もある。韓さんが責任者を務める産後ケア施設「文華苑」は昨年8月、台北市内にオープンした。部屋には入浴設備や洗面台などを完備し、エステ施設も付属している。利用料は1泊1万3千台湾元(約4万6千円相当)からと高額だが、中国からの富裕層の利用もある。
台湾では少子化が急速に進展している。台湾内政部の統計によると、合計特殊出生率は、中華社会で縁起が良く、出生率が高いとされる辰年の2012年でも1・265だ。韓さんは話す。「少子化が進み、子供1人にかけるお金が高くなった。求められるサービスも質が上がってきた」
出産・子育てに関する事情や考え方は国によって異なる。出生率が低下し、共働き夫婦が当たり前の台湾の子育て事情を紹介する。
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子育てだけでなく、台湾での妊娠・出産事情も日本とは大きく違う。
日本では無痛分娩(ぶんべん)は少ないが、台安病院産婦人科の陳思銘医師は「月に200人ほど分娩がありますが、9割は無痛分娩です」。ほとんどの病院で無痛分娩を行っているといい、陳医師は「無痛の方が母親が楽。母親が痛みで動いてしまうことがなく、赤ちゃんもスムーズに出てくることができます」。
日本では命の選別につながる可能性もあるとして議論された出生前診断も台湾では考え方が違う。台湾では34歳以上の妊婦には羊水検査が推奨されている。台安病院では、34歳以上の妊婦のほとんどが羊水検査を受診。若い妊婦にも、母体血清マーカー検査の一つ「クアトロテスト」を勧めている。
羊水検査を受けたある台湾人女性(40)は「台湾人は羊水検査などの出生前検査も血糖値を測るのと同じ感覚。子供が病気だとしたら心の準備ができる。母子検診の一つというイメージ」と話す。