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糖尿病の新治療薬登場 尿への糖排出促進、体重も減少

ニュースカテゴリ:暮らしの健康

糖尿病の新治療薬登場 尿への糖排出促進、体重も減少

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 血液中の糖濃度の高い状態が続くため、神経や網膜、腎臓に合併症が出る糖尿病の治療に新薬が登場する。これまで血糖を下げるホルモン、インスリンの効果を高めるなどの作用を持つ薬剤が主流だった。

 新薬は、いったん尿に排出された余分な糖質(グルコース)を腎臓が再吸収するのを妨げる形で血糖値を下げ、体重も減少させる。同タイプの6種類の薬剤が国内で治験が行われ、一部は欧米や国内で承認され始めている。国内に約950万人と推計される糖尿病患者の投薬治療に選択肢が広がることになりそうだ。

 血糖値が降下

 この薬は、腎臓内の糖を再吸収する部位である「SGLT(ナトリウム・グルコース共輸送体)2」の働きを阻害し、抑制する。

 もともと腎臓には血糖値を一定に保つ働きがあり、尿の通り道の尿細管(近位尿細管)にある「SGLT2」の働きで、血液から尿に排出された糖の90%を回収している。

 多量の糖が尿に排出される糖尿病患者の場合、「SGLT2」の機能を薬で抑えることにより、余分な糖が再吸収されて血液中に入り込むことはなく、そのまま尿に排出される。このため、尿に含まれる糖の量は増えるものの血糖値は降下し、高血糖の状態が改善されることになる。

 また、薬で血糖が減少したことにより、細胞に取り込まれる糖は少なくなり、結果的に体重が減る。この影響でインスリンの効き目が良くなり、インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)のランゲルハンス島β細胞の負担が減って、インスリンの分泌能が回復することが期待される。

 副作用としては、尿糖が増えることから体内の細菌が繁殖するなどして起きる性器と尿路の感染症などに注意する必要があるという。

 広がる治療の幅

 治験に参加した日本糖尿病学会専門医の上田信行・上田内科クリニック院長は「糖尿病の治療薬は、これまで血糖を下げるインスリンを投与したり、その効き目を良くしたり、分泌能力を高めたりするタイプが多かった。今回の薬は、余剰な糖の尿への排出を促進する形なので、薬の作用がこれまでと全く異なり、治療の幅が広がったといえる」と説明する。

 治験でも約1年間の投与で、1~2カ月間の血糖値の平均を示すHbA1cの値(国際標準値で7%未満の血糖コントロールを目指す)が1%近く改善された。体重が2、3キロ減少した症例も見られ、肝臓に蓄積される脂肪の量が減り、肝機能の状態を表す物質(γGTP)の数値も良くなる傾向が示された。

 上田院長は「薬は、食事療法や運動療法を繰り返し指導しても肥満が改善しないため、食後血糖が高い人に用いるのが基本」と強調。そのうえで、新薬について、「痩せ過ぎないか、脱水症状を起こさないか、カルシウムなどが多く排泄(はいせつ)されて骨粗鬆(こつそしょう)症につながらないかなど、さらに検討していきたい」と話している。

 2010年頃から各国で治験

 現在の糖尿病の治療薬には、(1)インスリンの分泌を促進させる(2)インスリン抵抗性(効き目)を改善する(3)腸管からの糖の吸収を抑制する-の3タイプがある。

 最近では、食事に伴い消化管から分泌され、膵臓からのインスリン分泌を促進するホルモン「インクレチン」の効果を高める薬も発売されている。

 SGLT2阻害薬は、りんごの木の根から見つかり、糖尿病に関係があることが分かった「フロリジン」という化合物。薬としては化学構造に6種類あり、2010年頃から世界各国で治験が始まった。今年1月に国内で承認された1剤のほか、米国などで他の2剤が承認されている(坂口至徳)。

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