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現代文学の魅力、世界へ 英老舗誌、初の日本特集

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現代文学の魅力、世界へ 英老舗誌、初の日本特集

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『GRANTAJAPANwith早稲田文学』の創刊イベントで、村田沙耶香さん(左端)、中島京子さん(左から4人目)ら作品を寄せた日本の作家が、海外の作家とともにトークを繰り広げた=8日、東京・六本木  漫画やアニメに比べ、日本の現代文学の欧米での認知度は低いとされる。9日まで開かれた第2回東京国際文芸フェスティバルでは、そんな日本文学の魅力を海外に発信する試みの成果を実感する場面に出合えた。(海老沢類)

 実験的作品に刺激

 「英訳を前提にした依頼は初めて。違う文化圏の人に読まれることを空想しながら書いた」。8日に東京・六本木で開かれた新雑誌『GRANTA(グランタ) JAPAN with 早稲田文学』(発売・早川書房)の創刊イベント。巻頭を飾る短編を書き下ろした三島賞作家、村田沙耶香(さやか)さん(34)は約200人の聴衆を前に、海外に向けて言葉を紡ぐ高揚感を語った。

 新雑誌は、1889年に創刊された英の老舗文芸誌『GRANTA』の日本版。発売中の創刊号には村田さんのほか、芥川賞を受けた小山田(おやまだ)浩子さん(30)や円城塔(えんじょう・とう)さん(41)ら、若手を中心に日本の作家や写真家ら11人が作品を寄せた。早稲田文学編集室と英の編集部などの共同編集で製作。同じ作品を載せた英語版は、同誌初の「日本特集」として編まれた。

 共同編集が実現した意義は大きい。『GRANTA』の強みは、欧州はもちろんブラジルや中国など10カ国超で現地版を発行する国際ネットワーク。今回英訳された短編が各国の編集者の目に触れて仕事が舞い込む可能性もある。このため日本側の関係者は昨年の文芸フェスなどで海外の編集者と交流を深め、準備を進めてきた。

 「実験的な作品が多く、刺激を受けた」(英の編集責任者、ユカ・イガラシさん)と日本の若手の評判は上々。早稲田文学編集室の窪木(くぼき)竜也さん(31)も「想像力の質では日本の作家は見劣りしない。英訳をきっかけに新たな読者を獲得できれば」と期待を寄せる。容易ではない浸透

 少子化などの影響で国内の書籍市場が縮小する中、「海外進出は喫緊の課題」(出版関係者)との指摘は少なくない。英語圏では村上春樹さん(65)の成功が知られ、最近では小川洋子さん(51)や中村文則さん(36)らが米の文学賞を受賞して話題になった。ただ、一定の商業的な成功が求められ「刊行される文芸書のうち非英語圏の作品は1%程度にとどまる」(日本財団の辛島デイヴィッドさん)とされる米市場への浸透は容易ではない。こうした中、国際交流基金が昨年から、日本作品の魅力を説く英語冊子を作って海外の出版関係者に配布するなど新たな取り組みが始まっている。

 映像化も合わせて

 早川書房は今年8月から米出版社「Bento Books」と共同で、日本のエンターテインメント小説を英訳し、リスクの少ない電子書籍とオンデマンド版で配信する。「他言語への翻訳に結びつきやすい英語版を充実させ、映像化も狙いたい」と早川書房の山口晶編集本部長。第1弾は『開かせていただき光栄です』(皆川博子著)など5点で、地域性を意識させないミステリーやファンタジーを中心に選んだ。

 2日に都内で行われた〈日本の小説を世界の読者に届けるには?〉と題したトークショーでは「Bento Books」の担当者から、日本アニメのファン層が小説の読者層に移行しない-といった米での厳しい現状も報告された。一昨年、米エドガー賞最優秀長編賞候補に入った東野圭吾さん(56)の『容疑者Xの献身』を英訳したアレクサンダー・O・スミス副社長は「『日本のモノだから』という理由だけで小説を読む人は米には少ない。やはり『この作家が好き』という気持ちが一番」と話した。良質な翻訳を届けて固定ファンを増やす。地道な努力の先に、世界が見えてくる。

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