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書評
苦境の新書に救世主!? 本全体を包み込む「特大帯」
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大きな文字や写真が目を引く。本全体を覆うカラフルな帯を付ける新書が増えている 統一感があって比較的簡素にまとまっていた新書の装いが、どんどん派手になっている。宣伝文や写真を刷る帯に、本全体を包みこむような“超幅広”なものが増えているためだ。表紙を目立たせて売り場を確保するための仕掛けは、冷え込んだ新書市場の救世主になる?(海老沢類)
「新書大賞2014」の大賞に選ばれ、24万部に達したベストセラー『里山資本主義』(藻谷浩介、NHK広島取材班著)にも、特大の帯が巻かれている。休眠資産を再利用し、経済再生や地域コミュニティーの復活を目指す-。本の中で提言される未来像を伝える色鮮やかな写真と大きな宣伝文をあしらった帯は、単行本の表紙カバーと見まがうほどの存在感。だが、よく見ると幅が表紙より数ミリほど短く、端から定型の新書カバーがちらりとのぞいている。れっきとした帯だ。
「写真や文字を大きく使えるので書店の売り場でも目を引く。かつてのベストセラーを装いを新たに売り込めるのも利点」と角川oneテーマ21の原孝寿編集長は語る。表紙カバーそのものを変える場合は取次会社などへの連絡が必要だが、帯の交換だけなら煩雑な手続きはいらない。そんな手軽さも手伝って、KADOKAWAは昨年夏以降5点ほどで試している。
成果は上々で、平成17年に出た『決断力』(羽生善治著)は、羽生棋聖の対局中の写真を全面に配したところ、再び平積みされ増刷がかかった。『自律神経を整える「あきらめる」健康法』(小林弘幸著)も帯の変更後に増刷を重ね、20万部に到達した。表紙のインパクトが増したことで実用書コーナーにも置かれ、新書に関心の薄い女性読者を取り込んだのが大きい。KADOKAWAの販売担当者は「新書の売り場を飛び出して単行本と同じ扱いで売られやすい。帯ひとつで新たな読者を開拓するチャンスが広がる」と効果を語る。
全面を覆う帯は、映像化に合わせて文庫ではたびたび使われてきた。新書にまで浸透したのはここ1、2年だという。光文社新書は人気お笑いコンビ「しずる」の村上純さんの話題作『人生で大切なことはラーメン二郎に学んだ』など計5点で実施。PHP新書も昨年9月刊の『日本人はいつ日本が好きになったのか』(竹田恒泰著)で初めて採用した。書店の評判もよく14万部にまで部数を伸ばしたため、今年3月刊の新書のうち元プロ野球選手、宮本慎也さんの著作など2冊に同様の帯を付けて売る。PHP新書出版部の木南(きみなみ)勇二編集長は「著者に知名度があり、『これぞ』と思った本では今後も仕掛けたい」と話す。
各社が競って派手な帯をかかげる背景には、縮小が進む新書市場への危機感がある。出版科学研究所によると、平成24年のノンフィクション系新書の推定市場規模は198億円で前年に比べて14%ほど縮小した。25年の実績も「前年比で10%ほど落ち込む可能性が高い」(同研究所)という。ただ昨年もポプラ社やイースト・プレスをはじめ新規参入が相次ぎ、新刊点数自体はほぼ横ばいになるとみられる。売り場の争奪戦は激しさを増し、内容だけでなく見た目でも差別化が求められている。
出版事情に詳しいライターの永江朗さんは、一連の帯の流行について「売れ筋の本をさらに伸ばすには有効な手段」と認めながらも一定の節度が必要だと指摘する。「あまりに全面帯の数を増やすと、統一フォーマットでコストを抑えて利益を出す新書ビジネスのうまみが減ってしまう。効果を持続させるには仕掛ける本を的確に選ぶ出版元の目が重要になるだろう」