ニュースカテゴリ:暮らし
書評
SNS発写真集 ベストセラー続々 リアルな物語、口コミ拡散…アイドルと互角
更新
インターネット上のブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)から生まれた写真集が相次いでベストセラーになっている。
子供にペットに世界の絶景に…と被写体は多彩。等身大の日常をとらえた写真から伝わるリアルな物語性に加え、口コミで評判が広がりやすい利点もあり、無名の著者ながら人気アイドルの写真集並みに売れる本も出ている。
文字はタイトルと後書きだけ。写真のそばにも説明文はない。そんなユニークな写真集「ことばはいらない ~Maru in Michigan~」が発売半年余りで7万7千部にまで部数を伸ばしている。
「無名の人の写真集では異例の売れ行き」と、出版元の新潮社出版企画部の郡司裕子さんも驚く。米国人男性と国際結婚し、現在米ミシガン州で暮らすジョンソン祥子(さちこ)さん(37)の人気ブログを書籍化した。
被写体は祥子さんの長男、一茶(いっさ)君(2)と、家で飼っているオスのシバイヌ・マル。写真が趣味という夫に教わりながら、祥子さん自ら撮影した。ミシガン州の大自然を背景に子供と犬が、心を通わせているかのように寄り添う愛らしい姿がタイトルと響き合う。
郡司さんは「子供たちの成長過程が説明文なしで伝わってくる。写真のかわいらしさはもちろんだが、読者の想像力をかき立てるような豊かなストーリー性も魅力」と話す。
情報会社のオリコンがまとめた平成25年の年間売上部数ランキング(写真集部門)でも上位10作品の中にSNS発の写真集が2作入った。残る8作はAKB48をはじめとする人気アイドルの写真集だから、健闘ぶりが際立つ。
悲しくも温かいドキュメントタッチの物語が支持されているのは、同ランキング10位の「ありがとう!わさびちゃん」(小学館)。カラスに襲われて傷を負った子猫「わさびちゃん」が必死で生きようとする姿を記録したツイッターは、開設から1カ月で5万超のフォロワー(読者)を獲得。昨年10月に編まれた書籍もすでに10万7千部と好評だ。
12万7千部を発行し、同ランキングでも2位に入った「死ぬまでに行きたい! 世界の絶景」(三才ブックス)は、フェイスブックでの「いいね」の数を競った著者の社員研修での企画がもとになっている。世界各地の、息をのむような64の絶景を収める。
写真は外部から購入したもので、著者が掲載された絶景に全く足を運ばずに本が完成したことも話題になった。世界中の情報を瞬時に集められるネット時代を象徴する大胆な発想といえそうだ。
SNSなどの人気コンテンツ発の写真集はネットとの相乗効果も期待できる。実際、三才ブックスの及川忠宏さんは「刊行前から多くの固定ファンが付いている。ネット上でファンによる口コミが素早く拡散するのも利点」と話す。
元博報堂生活総合研究所所長で、社会評論家の林光さんは、一連の写真集の人気について「子供やペットといったプロの写真家が避けがちな素材の愛らしさと、作り込まれていないリアルな物語性が魅力。誰もが情報発信力を備えた時代だけに、ヒットの原石はまだ埋もれているはず」と話す。(海老沢類)