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書評
【書評】『ヘンリー・ミラーの八人目の妻』ホキ徳田著
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【大書評】『ヘンリー・ミラーの八番目の妻』ホキ徳田著(水声社・3360円)
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詩人のランボー、長編小説を書いたドストエフスキーという対極にある2人の文学者と格闘することからヘンリー・ミラーは『北回帰線』を書き上げデビューする。決して平易とは言えないこの作品がこんなにも長く深く人々に愛され続けているのは、ミラーの持つ太陽のような明るさ、圧倒的にポジティブなその姿勢からだろうと思う。本書を読むと、そのことがさらに明瞭に具体的に理解できる。
著者のホキ徳田はぼくの年上の友人であり、思えば最初にお会いしてから30年以上の月日が流れたことになる。彼女が再開したミラーのメモリアル・バー「北回帰線」にも何度か足を運び、その度にミラーの思い出話をせがんだものだった。断片的なそれらのエピソードが、本書を読むことで見事なタペストリーとしてぼくの眼前に姿を現したのであった。
ミラー最後の妻であるホキもまたミラーに負けず劣らず豊かな生命力を放っている。
ページをめくりながら、そのことを何度も再確認させられた。ミラーとの結婚生活は「まるで竜宮城へでも迷い込んだよう」だったとホキは書いているが、読者であるわれわれもまたヘンリー&ホキに誘われて海底に眠るパラダイスを旅するような気分にさせられる。あまりにも面白くて読むのをやめることができず一気に読んでしまう。
かつて刊行されたホキのヘンリー・ミラーをめぐるエッセー集『文豪夫人の悪夢』に雑誌連載された「浮草参番館」を加え、加筆が行われ刊行されたのが本書である。全10巻のヘンリー・ミラー・コレクションを新訳で刊行している水声社が版元だ。ネガティヴになりがちな日本の文学界にとってこれらミラー関連の本が立て続けに刊行されることの意味は小さくはないだろう。
ヘンリー・ミラーの小説がそうだったように、ホキ徳田のエッセーも性に関してあけっぴろげなところがある。だがこうした描写の向こうに、繊細で可憐(かれん)な一人の女性の深い愛というものが感じられる。それこそを、ぼくらは生命力であると感じるのではないだろうか。(水声社・本体3200円+税)
評・山川健一(作家)