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【書評】『カタツムリが食べる音』エリザベス・トーヴァ・ベイリー著、高見浩訳

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【書評】『カタツムリが食べる音』エリザベス・トーヴァ・ベイリー著、高見浩訳

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『カタツムリの食べる音』エリザベス・トーヴァ・ベイリー著、高見浩訳(飛鳥新社・本体1600円+税)  ■一人の女性の命が救われた

 これは小さなカタツムリが一人の女性の命を救ったという真実の物語です。「筋痛性脳脊髄炎」という、原因不明の強度の疲労が長期間続く病に倒れた著者、エリザベス。思いのままにならない体を抱え、絶望のふちにいる彼女のもとに、友人があるお見舞いを持ってきてくれました。それはスミレの鉢植え。その葉の下にドングリくらいの小さな生き物を忍ばせて-。

 最初のうちは興味を示さなかった著者ですが、次の日、自分宛の手紙の封筒に四角い小さな穴が開いていることに気づきます。ピンときました。これはカタツムリの仕業に違いない。試しに傍らの花弁を与えてみると、コリコリ、という微かな音をたてて食べるではありませんか。

 それから著者はこの小さな生き物に急速に惹(ひ)かれていきます。夜中、のそのそと鉢植えから這(は)い出し、紙や葉を食(は)む音、小さい体で長い距離を往復するそのたくましい生命力。そして、突然知らない場所に連れてこられた境遇、ゆっくりとしか進むことのできないカタツムリに著者は次第に自らを重ね合わせていきます。「このカタツムリは私だ。この子と私は間違いなく共生しているのだ-」。それは消えかけていた著者の命の灯が、静かに再燃した瞬間でした。

 本書は欧米で数々のノンフィクション賞を受け、世界各国で翻訳されています。ベストセラーに衆目が集まる日本市場では、なかなかオリジナルでは企画出版され得ない、多くの方に読んでいただきたい佳書です。(飛鳥新社・本体1600円+税)

 飛鳥新社出版部 畑北斗

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