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書評
【書評倶楽部】古美術鑑定家・中島誠之助 『ノモンハン1939』
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中島誠之助さん
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20世紀前期に日本の置かれた世界的地位を冷静に考察した内容が読書欲を高める。歴史に「もしも」はありえないまでも、あのとき日本人が視野を広くもって行動したならば世界史がまったく違った進み方をしていただろうと説いている。
当時の日本の海外派遣軍であった関東軍が画策しソ連軍と戦い大敗を喫したノモンハン戦役の真実を、その萌芽(ほうが)から説き起こし独ソ戦から真珠湾攻撃への伏線までを、きわめて高い視点から詳細に調べ上げているのだ。
日本国民にはまったく知らされていなかった大敗の事実と、その衝撃から帝国陸軍の参謀たちがソ連を避けて南進しアメリカと干戈(かんか)を交えるに至った過程が語られる。
かくてソ連はモスクワを死守しドイツ軍を撃退して勝利し、やがて東西の冷戦に突入し英国首相チャーチルいうところの「鉄のカーテン」が降ろされるに至るのだ。
第二次大戦における日本の敗戦は歴史の必然として避けられなかったのではないかと考えさせる。それは嘉永6(1853)年のアメリカ艦隊によるペリー来航から始まっている。極東の島国である日本の宿命が、世界の大勢から取り残され軍人の独裁支配に組み敷かれる道を歩まざるを得なかったのではないのだろうか。
日本が輸出した強靱(きょうじん)なピアノ鋼線がソ連軍によってノモンハンの原野に敷かれ、日本軍の戦車に絡まりつくのだ。ここに現在の日本の国際社会における教訓が隠されていないだろうか。
いま勤勉と英知で国を建てている私たちは、決して思い上がってはいけないのだということを、ノモンハン戦役を検証することによって知らなければいけない。世界の中の日本ということを認識する大切さを著者は自身の研究から教え、翻訳者の正確な文体がそれを支えている。(みすず書房・本体3800円+税)
なかじま・せいのすけ 昭和13年生まれ。東京・青山の骨董通りの名付け親。著書に『句集 古希千句』ほか。