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年金繰り下げを「75歳支給開始」と混乱? 理解すればお得も

ニュースカテゴリ:暮らしの健康

年金繰り下げを「75歳支給開始」と混乱? 理解すればお得も

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何歳から年金を受け取るか、悩ましいところだ  年金の受給開始を遅らせて、年金額を増やす「繰り下げ」を75歳まで延長する案が波紋を呼んでいる。65歳支給開始を一律に引き上げる「支給開始年齢の引き上げ」との混乱もあるようだ。だが、繰り下げはうまく使えば、個々の人生には「お得」な仕組みだ。制度を知って利用し、一方で年金財政の課題についても理解したい。(佐藤好美)

 「繰り下げ」が話題になっているのは、田村憲久厚生労働相が11日のテレビ番組で「75歳まで広げる案が与党で出ている。一つの提案と認識している」と述べたためだ。

 年金の受け取りは65歳が基準年だが、個々の希望によって60歳から70歳までの間で自由に選ぶことができる。早く受け取れば年金額が減り、遅く受け取れば年金額が増える。うまく使えば、生涯の受給総額が増えるから、この欄でも何度か取り上げてきた。

 中部地方に住む佐々木太郎さん(77)=仮名=は65歳から受け取る年金を68歳からに延期した。

 「仕事があって67歳までは給料もあったし、受け取りを遅らせれば年金額も増える。貯金を取り崩して生活し、70歳まで遅らせようかと思ったが、年金にあんまり欲を出すのもよくないと思い、68歳で受け取りました」

 佐々木さん自身は受給手続きを前に年金事務所に相談。何歳まで生きれば、65歳(基準年)から受け取った場合を追い越すかを計算してもらった。

 佐々木さんの世代は今よりも増額率が大きかったが、今なら受け取りを1カ月遅らせると、年金額は0・7%増える。65歳で受け取る年金を100%(基準額)とすると、66歳ちょうどで受け取り始めれば108・4%になり、70歳で受け取り始めれば142%になる。

 増えるのは、受け取りを待つ間の運用利回りが反映されるから。受け取り延期が促されているわけではない。厚労省年金局は「(数値は)年金財政に中立に設計されている」としており、遅らせて受ける人が多かろうが少なかろうが、年金財政にはプラスの効果もマイナスの効果もない。

 ただ、個々の家計への影響は大きい。気になるのは「何歳まで生きれば、65歳で受給開始した場合を追い越すか」だ。

 月に0・7%の増額率だと、65歳での受け取り開始を追い越す時期は、受給開始から11・9年後。66歳で受け取り始めれば、「分岐点」はおおむね78歳、67歳スタートならおおむね79歳となる。年金は生涯受け取れるから、その後は繰り下げをした場合の方が「お得」になる。ただし、注意点がある。

 佐々木さんは窓口で、「あなたの場合、繰り下げをすると『加給年金』も受け取れませんよ」と指摘された。加給年金は、年金のいわば「扶養手当」。妻が一貫して専業主婦だった元会社員に上乗せされる。加算もあるから年額約40万円と大きいが、厚生年金を繰り下げている間は受け取れない。このため、加給年金を受け取れる人の場合は、分岐点が11・9年後よりも先になる。

 佐々木さんは加給年金を含めて計算してもらい、納得して繰り下げを決めた。「自分で計算していないから、良かったのか悪かったのか、よく分からない。でも、私が死んだ後も、増えた厚生年金額が妻の遺族厚生年金に反映するからいいんじゃないか、と思っている」

 ■国民年金受給者の4割が「繰り上げ」

 60歳なら基準額の70%だが…

 年金制度には「繰り下げ」のほか、受給開始を65歳よりも前倒す「繰り上げ」がある。繰り上げをすると、月に0・5%の割合で年金額が減る。60歳に受け取りを早めると、年金は基準額の70%になってしまう。

 だが、利用者が多いのは圧倒的に「繰り上げ」。平成24年度時点で、国民年金受給者の4割を占める。一方、受給を遅らせる「繰り下げ」を選ぶ人は全体のわずか1・3%にすぎない。

 田村厚労相がテレビ番組で触れたのは、現在70歳まで認められている「繰り下げ」を75歳に拡大すること。

 これが実現するかどうかはまだ分からないが、仮に今と同じ0・7%の増額率が適用されるなら実用的とはいえない。この増額率だと、75歳時に受け取る年金額は倍近くになるが、65歳受給開始を追い越すのは11・9年後だから、ほぼ87歳。24年の簡易生命表によると、75歳男性の平均余命は11・57年(女性は15・27年)だから、統計上は「男性には勧められない」ということになる。加給年金を受け取れる人なら「さらに勧められない」となる。

 繰り下げできる年齢を75歳まで広げるなら、増額率を変える必要性が示唆される。だが、変更の仕方によっては「年金財政に中立」でなくなる可能性もある。

 厚労省は近く、年金の財政検証の結果を公表する。5年に1回行われ、それを基に必要な制度改正が検討される。年金制度の最大の課題は、過去10年間に実施予定だった自動給付調整が効かなかったこと。

 その結果、現在の年金は予定されたよりも高い水準で支給されており、今の30代以下の年金水準が下がり過ぎることが懸念されている。後世代に受け継げる年金制度の改正を受給世代も含めて考えたい。

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