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「生活の質」低下招く便失禁 電気刺激の治療も選択肢に

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「生活の質」低下招く便失禁 電気刺激の治療も選択肢に

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仙骨神経刺激療法  出産や手術により肛門周辺の括約(かつやく)筋が損傷を受けるなどし、自分で排便をコントロールできなくなる「便失禁」。これまでは投薬などによる治療が主だったが今年4月から、ペースメーカーを体内に植え込み、微弱な電気刺激を与える治療法が保険適用となった。この治療を受けた患者の7割に改善が見られており、治療の選択肢が広がっている。一人で悩みがちな疾患だが専門家は、「ぜひ専門医に相談してほしい」と呼びかけている。(佐々木詩)

 国内に約500万人

 便失禁の患者は出産を経験した50~60代の女性に多い。重度の糖尿病患者や直腸がんの手術後などにも起こるといい、現在国内に約500万人いると推定される。

 初期症状としては排便した後の切れが悪く、本人の意思に反して漏れるようになり、徐々に失禁の頻度が高まっていく。便は軟便に限らず、固い場合もあり、下痢の症状とは大きく異なる。起きているときだけではなく就寝中でも漏れてしまうこともあるので、おむつを着けて生活している患者もいるという。便失禁の治療に詳しい、関西医科大学付属滝井病院副院長で外科部長の吉岡和彦さんは「便失禁のため、外出を避けるようになったり、家族にも言えず悩む患者さんが多い。生活の質がきわめて低下する疾患といえます」と話す。

 これまでの治療では、生活習慣の改善や括約筋の筋力トレーニングの指導などのほか、便の状態をよくするための投薬が行われてきた。便失禁は、便の状態が固かったり柔らかかったり不安定であることが原因になることも多く、この投薬治療で患者の5、6割に改善がみられるという。

 約7割の患者が改善

 今回保険が適用された手術は「仙骨神経刺激療法」。心臓用ペースメーカーとほぼ同じ形状をしている神経刺激装置を臀部(でんぶ)から植え込み、排泄(はいせつ)をつかさどる「仙骨神経」に電気刺激を与えることで症状を改善する。改善の詳しいメカニズムは不明だが、これまで約7割の患者に改善が見られたという。

 吉岡さんによると、手術は2段階に分けて行われる。刺激装置の植え込み前に、体外から仙骨に細いリード(電極)を通し、2週間ほど電気刺激を与えて様子をみる。治療効果が見られた場合に、改めて刺激装置をリードにつなぎ、植え込む手術を行うという。装置の電池は長くても7年で切れるので、その際はバッテリー交換のための再手術が必要だ。

 改善が認められる手術ではあるが、便失禁だからといっていきなり手術を勧められることはない。投薬治療をして、十分な効果が得られずとも、「病気とつき合う」という選択をする患者もいる。「様子をみた上で、患者さんの意思を確認しながら手術を行うかどうか決定します」と吉岡さん。

 排便に関する疾患ということから、受診をためらうケースも多い。吉岡さんは「患者さんの中には症状を受け止めてもらえて気持ちが楽になった、という人もいます。一人で悩まず、専門医に相談してほしい」と話している。

 ■ウェブサイト「おしりの健康.jp」開設

 医療機器メーカー、日本メドトロニック(東京都港区)は今年4月、便失禁に関するウェブサイト「おしりの健康.jp」(http://oshiri-kenko.jp/)を開設した。さいたま市の指扇(さしおうぎ)病院副院長で排便機能センター長の味村(みむら)俊樹医師が総監修を務め、便失禁の仕組みや検査法、治療法などを紹介している。同社は「一人で悩む人も多い疾患なので、正確な情報を提供したい」としている。

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