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地道な発掘と強化重視が結実 大屋博行
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【メジャースカウトの春夏秋冬】恩師であるローイ・カーピンジャー氏(左)と大屋博行氏(アトランタ・ブレーブスの国際スカウト駐日担当)=1月18日、米国(大屋博行さん提供)
チームの一員として本当にうれしい知らせだった。アトランタ・ブレーブスが、ナ・リーグ東地区で独走の地区優勝を果たした。ポストシーズンは地区シリーズでドジャースに敗退したが、8年ぶりの地区優勝の裏には、「原点回帰」でチームが復活した物語が存在している。
チームの黄金期は、1990年代にあった。91~2005年まで、ストライキでシーズンが打ち切りとなった94年を除き、14年連続で地区優勝を達成。これは米4大スポーツの中でも最長の連続優勝記録である。
そんなチームの土壌は、ブレーブス伝統の「選手育成」にあった。野手では、チッパー・ジョーンズやアンドリュー・ジョーンズ(楽天)、投手ではトム・グラビンやケビン・ミルウッドといった選手たちが常勝軍団を支えたのだが、彼らはいずれもチームの生え抜き。ドラフトで指名し、マイナーから鍛え上げた選手たちが屋台骨だった。
ところが、2000年代に入ると、暗雲が漂ってきた。ニューヨーク・ヤンキースやアリゾナ・ダイヤモンドバックスといったチームが代表的だが、豊富な資金力にものをいわせ、フリーエージェント(FA)になった有力選手を次々と獲得する大型補強が全盛の時代となった。ブレーブスからも好条件で他球団に移籍する選手が出て、チームは苦しくなった。
この戦略で後れを取ったチームは手っ取り早い補強策に動いたが、ゲイリー・シェフィールド選手やティム・ハドソン投手らは、期待ほどの成績を残せなかった。この間にはせっかく育成してきた選手が流出することも多かった。ドジャースで正遊撃手を務めたラファエル・ファーカル選手などは典型例だ。
補強に失敗し、トレード要員などで若い有望な選手を手放す「負の連鎖」が、低迷につながってしまった。
こうした反省を踏まえ、チームは伝統的な方針だった育成に原点回帰していく。伸びしろのある選手を探し、粘り強く育て上げて戦力にする。球団も、スカウティング能力と育成能力には自信を持っており、チーム強化の王道だと判断した。
地道にまかれた種が、次第に花開きだした。今季13勝を挙げてエースに成長したマイク・マイナー投手は09年のドラフト1巡目指名選手。正捕手のブライアン・マキャン選手は02年の2巡目、史上初の新人から3年連続40セーブを達成したクレイグ・キンブレル投手は、08年に3巡目で指名した選手だ。
今季はけがに苦しんだが昨季に27本塁打もマークした右翼手、ジェイソン・ヘイワード選手も生え抜きのスター候補。彼らが新星・ブレーブスの中心選手となり、ついに地区のチャンピオンフラッグを奪回することができた。
ブレーブスが誇る選手育成の“虎の巻”とは…。それは、綿密なスカウト網と充実した育成組織にある。たとえば、私も属する国際部のスカウトだけでも、総勢26人を数える。普通の球団であれば、2桁の人数を置くことはまれだ。もちろん、国内のスカウトも豊富なことはいうまでもない。
今は芽が出ていなくとも、しっかりとした素質を持った選手を探し出してくる。日本国内で活動する私も、そのために掛かる交通費や宿泊代を球団に渋られたことはない。「埋もれた選手を苦労を惜しまずに探してこい」ということだ。
そして、選手を獲得した後は、お互いにリスペクトしあっている発掘部門から育成部門へと選手を託すことになる。傘下に、3Aからルーキー・リーグまで8つの下部組織があり、約200人の選手が在籍している。選手層数が150~180人という球団も珍しくなく、いわば1、2チーム多く保有しているといっていい。
マイナーの施設はすべて整備された芝生のグラウンドで、けがをした選手のリハビリ施設などの環境面も30球団でトップクラスといっていいだろう。
特徴的なのは、人間教育に力をいれていることだ。球場入りする際の服装は襟付きでなくてはならず、サンダルや短パンは厳禁。ユニホームも裾を隠したロングパンツは着用できない。野球の力量だけでなく、子供たちから尊敬される社会人であることが求められている。
近年は、育成のためのスカウト網をさらに拡大している。野球がそれほど盛んでないスペインにも野球アカデミーを開校。欧州で比較的野球が盛んなイタリアだけでなく、スペインのほか、ロシア、ルーマニアといった地域からも身体能力に優れた選手を発掘しようという試みだ。欧州全体を統括する支部組織でもあり、メジャーでも珍しい取り組みだろう。
もともと、国外の選手を積極的に発掘したのは、チームの伝統でもある。その歴史の線上に駐日スカウトもある。ブレーブスのスカウトになった理由も、育成を「強化の柱」としていることが要因だった。
マイナー契約からメジャー昇格を勝ち取った日本人選手はまだ出ていないが、いつか「ダイヤの原石」がメジャーのグラウンドに立つ日が来ることが、私の夢であり、チーム強化の手助けにもなると信じている。(アトランタ・ブレーブスの国際スカウト駐日担当 大屋博行/SANKEI EXPRESS)