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世界一締める38歳の「奇跡」 Rソックス上原「まさか自分が」
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1903年以来、109回(途中2回中止)の歴史を誇る米大リーグのワールドシリーズ。野球人のすべてが夢見る「世界一」を決めるこの栄光の舞台で、今年、最後にマウンドに立っていたのは上原浩治投手(38)だった。ワールドシリーズ第6戦は10月30日、ボストンで行われ、上原のボストン・レッドソックス(ア・リーグ)がセントルイス・カージナルス(ナ・リーグ)を6-1で破り、4勝2敗として6年ぶり8度目の優勝を果たした。上原は5点リードの九回に登板し、三者凡退、最後を三振で締めくくった。「もう、うれしい以外ない。長かった」。上原は充実感を漂わせ、喜びをかみしめた。
勝利が決まると、上原は右手を突き上げて捕手と抱き合い、そこに歓喜の輪ができた。「今は脱力感しかない。早く休みたい。本当に1年頑張ったと自分で言える」と喜びを語る上原の瞳からは、大粒の涙がとめどなく流れ出た。
九回、大差での上原起用は、チームの勝利に対する姿勢であると同時に、厳しいマウンドを1年間守ってきた右腕に対する、最大限の敬意の表れだった。今年はレギュラーシーズン、ポストシーズンで計4度、胴上げ投手になった上原は、「まさかこの自分が名門チームのクローザー(抑え投手)になるとは思っていなかった。今年だけで4度できたので、すごいいい1年だった」と振り返った。
38歳。だれもが上原の盛りはすでに過ぎたと思っていた。しかし、大リーグ5年目の今年、往年の球威と切れが戻り、巨人時代の全盛期のマウンドでのしぐさまで復活した。まさに奇跡、野球ファンを驚嘆させた。復活の背景には、先発への未練を捨て、クローザーという新たな身の置き場を得たことがあった。
ロイヤルズで投手コーチの経験もある大リーグ解説者の高橋直樹氏(68)は「上原はもともと肩の準備が早い投手。常に全力投球するプレースタイルも抑えに合っていた」と話す。
上原はSANKEI EXPRESSで連載中の「メジャーリーグ漂流記」の中で、クローザーについて「絶対に失敗は許されないポジション」とつづった。さらに、抑えて当たり前、取材されるのも打たれた時ばかりで、精神的にも相当きついともらした。「『自分がこのゲームを終わらせるんだ』という強い気持ちがなかったら、とても務まらない」とも述べた。
今季はシーズン途中の6月下旬に、セットアッパー(中継ぎ投手)からクローザーに転じ、チームの快進撃を支えた。
大役を担い、生活態度も改め、試合後に外食に出かけることもほとんどなくなった。球場内でチームが用意した食事を済ませるとすぐに帰宅。入浴剤を入れた浴槽に体を沈め、疲労回復に時間を費やした。さらに睡眠前には、肘への電気治療で入念にケアを続けてきた。ア・リーグ優勝決定シリーズではMVPも獲得。「米国に行って、さらに野球が楽しくなった」と笑った。
渡米したのは2009年。メジャーで5シーズン投げることが当初の目標だった。今季が5年目。世界一の美酒に浸る“シャンパンファイト”の最中に感想を聞かれると上原は、「振り返らへんよ、まだ。もうやめるみたいになってしまうんやん」と大阪弁でまくし立てた。大学時代から憧れ続けたメジャーのマウンドで、まだまだ躍動する。(SANKEI EXPRESS)