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【日本遊行-美の逍遥】其の二(山鹿・熊本県) 宵闇に揺れる妖艶な「金灯籠」

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【日本遊行-美の逍遥】其の二(山鹿・熊本県) 宵闇に揺れる妖艶な「金灯籠」

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 縁あって、明治より現存する芝居小屋、八千代座(熊本県山鹿市(やまがし))の舞台で講演を行う機会に恵まれた。その下見の際に、山鹿の皆さんのご好意で、千人灯籠踊りを、4名の有志が八千代座の舞台上で踊ってくれることになり、その写真を撮影させていただいた。

 山鹿灯籠まつりは神代の昔にまで溯(さかのぼ)る山鹿最大の祭りで、なかでも千人灯籠踊りは、毎年お盆の8月16日の夜、1000人もの女性が金灯籠を頭上に掲げて櫓(やぐら)のまわりを踊るという壮大なものだ。宵闇の中、明かりをともした灯籠が踊りに合わせて揺れ動く姿は何とも妖艶で、浮世離れの感がある。今回は祭りのときとは臨場感が異なるものの、八千代座という特別な舞台での踊りということもあり、非日常的な空気に包まれて、シャッターを押す僕も興奮気味になった。

 灯籠は光を通すと、命が吹き込まれたかのように美しく輝く。地元の伝統的な和紙の工芸品であるこの山鹿灯籠のはじまりは室町時代からだと聞く。もとは女性たちが頭に担ぐ「金灯籠」があり、その後「神殿造り」「座敷造り」「城造り」などと呼ばれる、建物をかたどった灯籠づくりに発展した。

 これらは神事と密接な関係にあり、金灯籠は装着して踊り、建物をかたどった灯籠は毎年30基が作られ、大宮神社に奉納される。木や金具は一切使わず、和紙と小量の糊(のり)だけで張り合わせたその姿は精緻で軽い。柱や障子の桟まですべて中空でできているからだ。技術力が必要で、灯籠師として一人前になるには十数年の時間を要する。

 ≪地域の歴史感じながら 「風土」育む舞台≫

 明治時代に建てられた八千代座には、回り舞台や豪華な天井絵があり、ここで芝居を楽しんできた人々の歓声が聞こえてくるようだ。それでも戦後の娯楽の変化に伴い、使われなくなってしまった八千代座。朽ちていく建物の姿に見かねた有志たちが立ち上がり、平成の大修理を経て1923(大正12)年の姿に復元され、今日、さまざまな形で活用されている。

 八千代座は古くからの温泉宿場町にあり、江戸時代の建築様式を色濃く残す大浴場「さくら湯」などが残されている。山鹿地方では路地のことを「小路(しゅうじ)」と呼ぶ。その小路をたどると、人々の暮らしの痕跡が見えて散策にも楽しい。

 大正時代に銀行として建てられた洋風建築は、山鹿灯籠民藝館として活用され、前述の山鹿灯籠の数々を見学することができる。他にも大きな蔵のある酒屋の建物を食事処やギャラリーとして改築するなど、古い街並みを現代に生かそうと取り組んでいる人たちがいて、過去との時間のつながりが感じられる。

 この地域の子供たちは、発表会や朗読会など、機会あるごとに誰もが八千代座の舞台に立ち、芸能文化の体験を体の奥底に蓄えながら育つ。地域の人たちは、自分たちの経てきた歴史を、芝居や芸能を通して誰もが自然に学ぶことができる。芸能に関わる自分にとって、その環境は羨(うらや)ましく、また未来への可能性だとも思えた。

 灯籠踊りの艶やかさ、八千代座の躍動する佇まい。精緻な灯籠づくりや、時間が積層した町並みなど、眼に見えるもの自体の美しさがある一方で、同時にそれらを守り続けていこうとしている人々の思いの美しさにも心打たれた。(写真・文:俳優・クリエイター 井浦新/SANKEI EXPRESS

 ■いうら・あらた 1974年、東京都生まれ。代表作に第65回カンヌ国際映画祭招待作品「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」(若松孝二監督)など。ヤン・ヨンヒ監督の「かぞくのくに」では第55回ブルーリボン賞助演男優賞を受賞。

 昨年12月、箱根彫刻の森美術館にて写真展「井浦新 空は暁、黄昏れ展ー太陽と月のはざまでー」を開催するなど多彩な才能を発揮。NHK「日曜美術館」の司会を担当。2013年4月からは京都国立博物館文化大使に就任した。一般社団法人匠文化機構を立ち上げるなど、日本の伝統文化を伝える活動を行っている。

 【ガイド】

 SANKEI EXPRESSで日本の美に焦点をあてた写真を紹介する井浦新さんが2013年12月14日、今回の撮影現場にもなった八千代座でトークイベントを行います。(熊本県)山鹿市教育委員会が主催する「山鹿市読書活動推進大会」の一環で、『「ゆずり葉」のように』をテーマにお話しします。日本の伝統文化や伝統工芸の活性化に取り組むため「匠文化機構」を立ち上げた井浦さんが、新しい葉ができると古い葉が落ちる「ゆずり葉」のように、先人から受け継いだ伝統をつなげる大切さを語ります。(2013年)12月14日(土)午後3時開演(午後2時開場)、熊本県山鹿市山鹿1499の八千代座で。入場無料、全席自由。問い合わせは山鹿市教育委員会社会教育課(電)0968・43・1651まで。

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