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政治
外れた目算 米への配慮通じず TPP 年内妥結断念
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環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉の閣僚会合は12月10日、交渉継続を宣言する共同声明を発表し閉幕した。関税全廃にこだわる米国の圧力に対し、日本側は農産物の「重要5分野」586品目のうち真に守るべき品目を選別し、そこは一歩も譲らない姿勢を貫いてきた。来年1月の次回閣僚会合に向け厳しい交渉は続く。
「同じことばかり言い合って、対立点ばかり強調しても意味がない」
閣僚会合の会場となったシンガポール市内のホテルの会議室。西村康稔(やすとし)内閣府副大臣は会合初日の(12月)7日から参加12カ国の閣僚らであふれる室内で声を張り上げていた。
日本政府は米国と歩調を合わせ「年内妥結」を目指してきた。米国と連携して一気に交渉をまとめ、日本の農産品の関税維持を図ろうとしたからだ。それだけに、妥結先送りは何としても避けたかった。そもそも日本は、交渉全体の空気を読めない米国を支えてきた面もある。
「首相、会議に参加すると表明してください」
甘利明(あまり・あきら)TPP担当相は10月上旬、前回の閣僚会合が開かれたバリ島から安倍首相の携帯電話を鳴らした。交渉を仕切る米通商代表部(USTR)のフロマン代表が、閣僚会合に続く首脳会合にオバマ大統領が欠席することを突然通告したからだ。
他の参加国に困惑が広がった。甘利氏が「各国首脳は出席するのか?」と聞くと、「無理」というジェスチャーが返ってきた。交渉妥結に向けた機運はしぼみかねなかったが、フロマン氏は素知らぬ顔。そこで甘利氏は安倍首相の出席をいち早く約束し、各国首脳が出席しやすい環境をつくろうとした。
だが、日本にとっての難敵は、その米国だった。菅義偉(すが・よしひで)官房長官は今月(12月)1日、甘利氏や林芳正(はやし・よしまさ)農林水産相とともに、来日したフロマン氏と都内のホテルでテーブルを囲んだ。関税全廃を求めるフロマン氏に対し、菅氏はこう反論した。
「(安倍政権の)公約だから日本は譲れない!」。話し合いは平行線をたどった。政府高官は「米国は安倍政権の支持率が高いから何でもできると思ったようだ」と振り返る。
米側の圧力は自民党にも向けられた。西川公也(こうや)TPP対策委員長は11月中旬、密かに都内の米公使公邸を訪れた。待っていたのはカトラーUSTR次席代表代行だった。
「韓国は米韓自由貿易協定(FTA)でナシとリンゴの関税を20年かけて撤廃する。日本は重要5分野を全て守ったら関税自由化率は93.5%にとどまる。それでいいのか」
カトラー氏は関税を段階的に引き下げる案を示しながら、関税全廃を受け入れるよう執拗(しつよう)に迫ってきた。西川氏は「妥協点は1つもない」と感じ、「日本の自由化率は明言しない。次回の閣僚会合で一発勝負をやりましょう」と伝えた。
米国を側面支援しながら交渉の主導権を握り、関税の聖域を守ろうとした日本だが、結果として米国の強硬姿勢が障壁となった。
安倍政権は、TPPでアジア太平洋地域の新しい経済ルールを構築し、東南アジアで活発な経済外交を展開する中国を牽制(けんせい)することを狙った。TPPを日米同盟の強化につなげたいとの思いもある。
首相の経済政策「アベノミクス」は東南アジアの経済成長を取り込むことも柱に据えている。TPPの最終合意が遠のけば、そうした目算も狂う。支持率低下にもつながりかねない。
閣僚会合前に「1ミリも譲歩できない」と強調していた西村氏は10日、シンガポールで記者会見し、来年1月の閣僚会合に向けた対応について「党の公約の範囲で、ギリギリの提案をしている。この主張は変わらない」と強調した。(水内茂幸、シンガポール 坂本一之/SANKEI EXPRESS)