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「茶会」との距離感測る保守層
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来年11月に中間選挙を控え、保守層の間で草の根保守運動「ティーパーティー(茶会)」との距離感をめぐる議論が続いている。共和党は今月(12月)、予算編成の枠組みなどを協議する議会の超党派委員会で茶会の反対を押し切るかたちで民主党と妥協し、上下院での予算法案可決を実現した。保守層の間で高まっていた共和党が茶会とともにオバマ政権を批判するしかできない現状への不満が、予算協議での妥協を後押ししたかたちとなった。ただし妊娠中絶反対などの社会問題では、保守層には、共和党は茶会とともに堂々と主張を展開すべきだとの声も根強い。選挙戦を前にした共和党議員の思惑は複雑で、党内の亀裂も目立っている。
「茶会は完全に信頼を失っている」。ジョン・ベイナー下院議長(64)は12月12日の定例記者会見で茶会との決別宣言ともとれる言葉を口にした。2日前の超党派委員会での合意が茶会から「政府の歳出規模を拡大させる」と激しく批判されたことへの反論だった。
ベイナー氏は9、10月の予算協議では、医療保険制度改革(オバマケア)の見直しを求める茶会への配慮の末、政府機関の運営に不可欠な暫定予算案に強硬に反対。その結果、政府機関閉鎖と共和党の支持率の低下を招いた。この日の記者会見では、茶会がこうした最中でも最後まで政府機関再開に反対し続けたことに触れ、「冗談を言うもんじゃないぞ!」と声を荒らげた。
政府機関閉鎖は11月上旬のバージニア州知事選で茶会の支持を受ける共和党候補が惜敗した一因にも挙げられただけに、ベイナー氏の怒りは頂点に達している様子だ。
茶会はかつて2010年11月の中間選挙でオバマ政権の経済政策に強く反発し、共和党大勝の追い風となった。しかし3年後の現在では、茶会の「不支持率」は56%まで跳ね上がっている。
このため共和党の復権を願う保守層の間では秋以降、茶会と共同歩調をとる共和党への苛立ちも高まっていた。オバマケアをめぐっても、ウェブサイトの障害や医療保険契約の見直しを迫られる加入者が続出しているといった欠陥を批判するばかりで、オバマケアが解決しようとする無保険者の問題などへの解決策を示せていないとの不満は強い。
保守系雑誌ナショナル・レビューのリッチ・ローリー氏は共和党に対して「保守主義を改革する戦略を示し、有権者の日常問題に取り組む」ことの重要性を指摘していた。ベイナー氏が今回の予算協議で民主党との妥協に踏み切ったのも、こうした声に応えようとした結果だといえる。
一方、共和党は茶会が主張している中絶反対などの社会問題から距離をとるべきだとの声もある。
バージニア州知事選では、共和党候補が中絶に否定的な立場を「女性の中絶を選ぶ権利を無視している」と批判され、女性票で9ポイントの差をつけられて敗れるなど、社会問題への態度が逆風を呼ぶ懸念があるからだ。
しかしこうした見方には反論もある。保守系コメンテーターのマギー・ギャラガー氏は米国では中絶などをめぐる賛否は拮抗(きっこう)しており、茶会の関心が高い社会問題を棚上げすることは民主党を利すると主張。共和党候補の敗因は、中絶に否定的な立場をとりながら民主党の批判を恐れて堂々と議論せず、「過激な主張を隠している」と思われたことにあるとの分析だ。
ナショナル・レビュー誌のラメシュ・ポヌール氏も、ニュージャージー州知事選で大勝した共和党のクリス・クリスティー知事(51)が同性婚容認の州法案に拒否権を行使したことがあることに触れ、「社会問題での保守的な立場自体が政治的な死刑宣告になるわけではない」と論じている。
来年11月に中間選挙を控える共和党議員にとっては、茶会の意に沿わない態度を取れば、党内の候補者を決める予備選で茶会に対立候補を擁立されてしまうという不安もある。たとえ茶会系候補の勝算が高くないとしても、予備選の活動費がかさむという現実問題は大きい。
超党派委員会で合意したはずの予算案の採決でも、下院では共和党から62人が反対。上院では36人が反対し、共和党からの賛成者はわずかに9人だった。ベイナー氏は反対一辺倒の茶会と決別して、民主党との妥協を重ねてでも責任を果たす政治にかじを切ろうしているようだが、共和党内が一枚岩で固まっているとは言い難いようだ。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS)